連載PRI Open Campus 80 ファイナンス 2025 Mar.きにくく、専門職に集中する傾向があります。非正規雇用割合で見ると、国籍を問わず、日本人よりも高い割合になっています。失業率では、南米国籍の方たちが突出して高く、日本人と比較して3倍以上になっています。東南アジア国籍者は、非正規になりやすい傾向がある一方で、失業状態になることは少なくなっています。これは、在留資格の違いが深く関係しています。例えば、ブラジルやペルー国籍者は日系の人が多く、身分または地位による在留資格を持っているため、たとえ仕事がなくても日本に滞在し続けることが可能です。また、配偶者も定住者の在留資格を持っていれば、就労に制限はないので、配偶者が働いて生活を支えつつ、仕事を探すということもできます。一方でインドネシアやベトナム国籍者は、技能実習や特定技能の在留資格割合が高くなっています。このような在留資格を持つ人たちは、仕事を失うと日本に滞在し続けることが難しくなるため、現在の地位で働き続けざるを得ない状況に置かれています。このような背景が、現在の状況につながっているのではないかと考えられます。賃金の面での統合について、移民と日本人の賃金を比較した図表4「日本人の賃金を1とした場合の外国籍の賃金」を見てみます。これは、日本人の賃金をるかを示したものです。モデル1は都道府県間の差だけを統制した結果、モデル2は年齢、性別に加えて、学歴、勤続年数といった人的資本に関する要素を統制した結果、モデル3は企業規模、産業、雇用形態を統制した結果を示しています。専門技術分野の在留資格を持つ移民の場合、日本人との賃金差はほとんどなく、勤続年数を考慮すれば、さらに差が小さくなることがわかります。一方で、身分や地位に基づく在留資格を持つ移民の場合、人的資本の要素を統制しても賃金は日本人より14%ほど低いことが確認されています。ただし、企業規模や産業、雇用形態を考慮すると、その差はなくなるため、低賃金職や非正規雇用に集中していることが賃金差の要因と考えられます。技能実習生については、さまざまな要素を統制してもなお、日本人より10%ほど賃金が低く、非常に不利な状況に置かれていることが示されています。以上から、日本にいる移民は次の3つのグループに分けられると考えられます。1つ目のグループは、高技能移民です。このグループは東アジアや欧米出身の方々を中心とし、日本人との賃金格差が小さく、非正規雇用の割合も比較的低い傾向にあります。2つ目のグループは高技能移民を除く身分系移民です。このグループは就労に制約がありませんが、高い非正規雇用率と失業リスクに直面しており、日本人との間に中程度の賃金格差があります。主に南米出身者や日本人の配偶者が中心となっています。3つ目のグループは技能実習生です。このグループは3~5年と滞在期間が定められているため、有期雇用となり、非正規雇用に位置づけられます。また、日本人との間に大きな賃金格差があります。このグループは東南アジア国籍の方々が中心です。これら3つのグループは日本の労働市場における地位が異なり、それぞれの受け入れ拡大が異なる経済的影響をもたらすと考えられます。たとえば失業率や非正規雇用率が高い傾向にある第二グループの移民が雇用状況の改善のないままに高齢化した場合、十分な年金を受けとれず、生活保護を利用せざるを得ない可能性が考えられます。現状では移民は若・壮年層に偏っており、社会保障の「担い手」「1」としたときに、外国人労働者の賃金が何倍になモデル3モデル1モデル2技能実習・特定技能モデル3モデル1モデル21.000.800.600.400.200.00図表4:日本人の賃金を1とした場合の外国籍の賃金1.20モデル3その他身分・地位(出典)永吉希久子. 2022.「外国人労働者と日本人労働者の賃金格差―賃金構造基本統計調査の分析から」『日本労働研究雑誌』744: 12-22.より、令和2年賃金構造基本調査をもとに筆者作成モデル1:都道府県差のみ考慮 モデル2:年齢、性別、学歴、勤務年数の違いを考慮 モデル3:企業規模、産業、雇用形態の違いを考慮モデル1モデル2専門・技術モデル3モデル1モデル2永住者
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