ファイナンス 2025年3月号 No.712
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その他ペルーブラジルアメリカイギリスネパールインドベトナムインド ネシアタイフィリピン中国韓国、朝鮮その他ペルーブラジルアメリカイギリスネパールインドベトナムインド ネシアタイフィリピン中国韓国、朝鮮連載PRI Open Campus 3. 日本における移民の経済的統合の状況られなかった結果であり、最初から依存目的で移住するケースは少ないと考えられます。日本では就労と紐づいた在留資格を持つ移民に対する福祉利用の規制が厳しいこともあり、福祉目的の移住はあまり起こらないと考えられます。他方で、後で見るように、移民が柔軟な労働力として活用されることで、結果としての福祉依存は生じる可能性があります。次に、この点を考えるため、日本における移民の経済統合について見ていきます。移民の統合に関する古典的な経済的同化モデルでは、移民は移住すると一時的に社会経済的地位が下がると考えてきました(Chiswick 1978)。本来持っているスキルを生かせず、以前とは異なる仕事に就いたり、失業を経験したりすることがあるからです。しかし、受け入れ社会でスキルや言語能力、ネットワークなどを獲得していくことで、最終的には経済的統合を達成していくと考えられています。ただし、移民が徐々にその社会に適応し、自国民と同じような仕事に就けるようになるという状況は、必ずしもすべての国で成り立つわけではありません。経済的同化モデルでは、スキルが向上したり、その国に馴染んでいくことで、それに応じて仕事を見つけたり、就職したりすることが想定されていますが、これは一概には言えない部分もあります。例えば、日本のように労働市場が分割されている場合には、必ずしも移民が経済的地位を向上させられるとは限りません。「労働市場が分割されている」とは、次のような状況です。安定し、スキルを身につける機会があり、賃金も上がっていくような職から構成される第一次労働市場が存在する一方で、不安定で低賃金、かつ訓練の機会もない職から構成される第二次労働市場が存在しており、これら2つの市場間を行き来することが難しいという状況で、これが「二重労働市場」と呼ばれます。日本を例にすると、正規雇用は第一次労働市場に該当し、非正規雇用は第二次労働市場に位置づけられます。非正規雇用から仕事を始めた人が、たとえば10年間頑張って、正規雇用に移行できるかというと、必ずしもそうではありません。そのため、労働市場が分断されていると考えられています。移民は、受け入れ国の法律や労働市場の仕組みについての知識不足や仕事を探す余裕がないことから、すぐに働ける仕事を選ぶ傾向があり、結果的に第二次労働市場に入りやすいとされています。そのため、滞在が長期化しても、安定した市場へ移行するのが難しくなるという状況が指摘されています。日本における移民の地位は、スキルレベルや在留資格などに応じて階層化されており、分割された労働市場に組み込まれていると考えられています。具体的には、いわゆる「高度人材」と呼ばれる移民は第一次労働市場に入ることができますが、それ以外の移民、例えば日系南米人や技能実習生は、第二次労働市場に振り分けられる傾向があるとされています。このことは国勢調査からも確認できます。ただし、国勢調査では在留資格は尋ねられていないため、代わりに国籍を用いたいと思います。図表3「国籍別マニュアル職の割合」を見ると、東南アジアや南米国籍の人たちは、日本人に比べてマニュアル職につきやすい一方で、欧米やインド国籍の人たちは、マニュアル職の仕事にはつ図表3:国籍別マニュアル職の割合4.504.003.503.002.502.001.501.000.500.00(出典)『国勢調査』をもとに講師作成。マニュアル職割合の比較(日本国籍=1)(2020年国勢調査)男性女性ファイナンス 2025 Mar. 79PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 41

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