ファイナンス 2025年3月号 No.712
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0連載PRI Open Campus 2.移民受け入れの経済的影響という日本人との繋がり、永住資格により滞在が認められているため、就労に制約がなく、失業しても滞在が可能です。また、生活保護制度の準用も認められています。もう1つは、活動に基づく在留資格と呼ばれるもので、ある活動することを前提に日本に滞在することを認められています。これには、高度専門職を含む専門・技術の分野の就労に関する在留資格、特定技能、技能実習、留学、家族滞在などが含まれています。これらの在留資格は職種等に制約があります。また、職に紐づいた資格では失業によって在留資格の更新ができなくなります。また、生活保護制度からも排除されています。このように、在留資格によってセーフティーネットの有無が異なっています。このことは、経済的影響に違いをもたらします。図表1「在留資格別の人口推移」を見ると、特別永住者の人口が減少する一方、就労系の在留資格を持つ人や永住者の人口は増加しています。特に技能実習生は2010年から2023年にかけて4倍になっています。また、専門技術系の在留資格の中で最も割合の多い技術・人文知識・国際業務(以下、技人国とする)は2010年から2023年で3倍になっています。つまり、「高技能移民」として位置付けられる技人国と、「低技能移民」として位置付けられることの多い技能実習の両方で人口が増加しています。在留資格の構成割合(2023年6月)は、身分または地位に基づく在留資格と活動に基づく在留資格の人がそれぞれ半数程度であり、後者の中で技能実習など滞在期間に制約がある在留資格の方は16.5%程度いますが、近年ではこれらの在留資格からでも、永住へと至るルートがつくられています。現在の日本はすでに移民を数多く受け入れており、今後も増加傾向となることが見込まれます。移民受け入れによる経済的影響について、ヨーロッパやアメリカを対象とした研究をもとに、雇用、GDPや国家予算、社会保障の3つの観点から考察します。雇用への影響については、移民労働者がより悪い労働条件での就労を受け入れることにより、自国労働者の労働条件が悪化し、失業率が上昇するという懸念がしばしば表明されます。しかし、こうした影響があるかどうかは、三つの条件によって調整されます。1つ目は、社会保障の利用可能性です。移民の社会保障の利用可能性が下がると、生活のために働かざるを得ないため、留保賃金が減少し、労働条件の悪い職でも働こうとします。結果的に、自国労働者にとっての労働条件の悪化に繋がります。2つ目は、賃金の弾力性です。最低賃金が比較的高く設定されている場合、移民を受け入れたことによる短期的な賃金低下は起こりにくくなります(Edo and Rapoport 2019)。しかし、雇用者が自国民を解雇して移民を採用する、つまり雇用が切り替えられた場合には、自国民の失業率は上昇します。3つ目の条件がもっとも重要で、移民と自国労働者の技能水準が代替関係にあるのか補完関係にあるのかというものです。諸外国の結果を見ると、移民の受け入れによって、移民と代替関係にある労働者(低技能者、先行の移民)の労働条件は悪化しますが、移民と補完関係にいる労働者は影響がない、または正の影響で賃金が上がっていることがわかります(たとえばOkkerse 2008)。第2の影響は全般的な国の経済状況、すなわちGDPや国家予算への影響です。これは理論値に基づくシミュレーションが多く、理論値が正しいのかとい図表1:在留資格別の人口推移(出典)法務省『在留外国人統計』をもとに講師作成特別永住者4,000,0003,500,0002010年と比べ技能実習(「低技能移民」)は4倍に増加技術・人文知識・国際業務(「高技能移民」)は3倍に増加3,000,0002,500,0002,000,0001,500,0001,000,000500,00019921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020202120222023永住者定住者日本人の配偶者等留学技術・人文知識・国際業務技能実習その他ファイナンス 2025 Mar. 77PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 41

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