1.日本の移民受け入れの状況 76 ファイナンス 2025 Mar.PRI Open Campus では、2024年10月3日(木)に「政府として国民の人口に比して、一定程度の規模の財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月の東京大学社会科学研究所の永吉希久子准教授にご講演いただいた内容を、「ファイナンス」の読者の方々にご紹介します。移民と日本社会の関係について、特に経済的な影響に焦点を当てて説明いたします。初めに、移民という語を定義する必要があります。日本政府は「移民」の定義を示していませんが、その定義は移民政策に関する議論からうかがえます。岸田前総理や安部元総理は、移民政策に言及する際には、外国人やその家族を、期限を設けることなく受入れることで国力を維持する」政策と説明しています(岸田前総理による2024年5月24日参議院本会議での発言)。つまり移民とは、永住を前提に移住する人を指す語として用いられています。財務総合政策研究所 総務研究部連絡調整係員 後藤 可那子総務研究部主任研究官 森 友理しかし現在では、永住意図をもっている人のみを移民とする定義は、学術的あるいは国際的にあまり用いられていません。現実には、短期の滞在のつもりで移住した人がそのまま定住することもめずらしくなく、当初の意図で区別することは困難であるからです。そこで当初の意図や目的を含まない定義が用いられます。たとえば国連の国際移住機関(IOM)では12ヶ月以上自分の国籍国または通常の居住地から移動し、移動先が新たな通常の居住地となっているような人を(長期)移民と定義しています。つまり旅行者などを除き、外国生まれのすべての人が「移民」となります。ただし、日本では出生地に関する統計がありません。そこで統計データを用いる際には、短期滞在者を除き、外国籍者すべてを「移民」として話を進めます。現在、日本における外国籍人口は増加傾向にあります。1950年から2022年にかけての外国籍者と日本国籍者の人口の推移をみると、日本国籍者の人口は2009年をピークに減少傾向にある一方で、外国籍者の人口はリーマンショックや東日本大震災による一時的な減少を経ながらも、増加を続けています。社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の人口推計によると、移民を今の規模で受け入れ続けた場合、2070年には日本の外国籍者の人口割合は10%強になるのではないかと考えられています。つまり、日本社会を構成する外国籍者の人口割合は、現在のフランスやオランダ並みになると考えられます。現在の日本における移民受け入れの状況について見ていきましょう。日本の在留資格は大きく2つに分類できます。1つは身分または地位に基づく在留資格と呼ばれるもので、永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、特別永住者が含まれます。これらの在留資格は、配偶者という地位や日系人である「移民と日本社会-データで読み解く実態と将来像」永吉 希久子 東京大学社会科学研究所 准教授専門分野は比較現代社会、意識研究、民族関係研究。2010年大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了。2011年東北大学文学研究科准教授を経て、2020年4月より現職。著書『移民と日本社会-データで読み解く実態と将来像(中公新書)』・移民と日本社会-データで読み解く実態と将来像41PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~連載PRI Open Campus
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