ファイナンス 2025年3月号 No.712
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連載セミナー 関わらない業務でDXをしたところで、今後、社内にうねりを呼び起こすことは難しいなと思いましたので、なるべく多くの人が携わる業務を選びました。ポイントの2つ目は、性格診断で最初のアプリ作成者を選定しました。メンバーの一人は、性格診断の結果、「創造的」なことが得意であると判定を受けました。また別のメンバーは、決してコミュニケーションがうまい方ではなくて、挨拶の声も小さいのですが、黙々と一人で集中して、自分の世界に入って取り組む作業が得意であるということが性格診断で分かりましたので、彼もメンバーに入れました。性格診断をやっていると、声掛けも変わってきます。やらされている感じではなくて、こんなことが自分でもできたのだ、という感動を与えることがすごく大事になってくると思います。弊社は自動車部品を全部目視検査しているのですが、アプリを作ることによって、検査した結果を紙には一切書かずに、全部タブレットで入力できるようになりました。これがアプリ第一弾です。検査結果をタブレットで入力できることになったことで、年間1万時間以上が削減できました。結果的に人件費なども削減できましたので、これで1,500万円の削減になりました。「隣の社員の一歩が、全社員の希望になった」こと、これが本当に大事で、例えば「こういったアプリを作ってください」と外注でお願いしても波及していきません。でも、今まで隣に座っていたこの彼がこんなすごいアプリを作った、となったら、「私でもできるかもしれない」というふうに、他の社員たちがすごくいい刺激をもらい、「ちょっと僕もやってみようかな」という希望になってくれました。この検査員の使っている検査アプリにはちょっと工夫をしまして、ほっこりと笑顔が生まれる雰囲気作りをしました。60名ぐらいの女性従業員たちが検査してくれるのですが、検査して「検査送信」を押すと、100回に1回ぐらいの確率で「当たり」が出ます。「当たり」が出ると、プレゼントがもらえるのです。女性が働きやすい雰囲気にするには、個々のほっこり笑顔をいかに職場に増やせるか、ということをすごく考えています。13.5%の先行社員に続く次の山の34%のところをご紹介します。34%のところまで来ると、山が半分できてきたので、ここで全部のタイプの社員を巻き込む段階になります。13.5%の山ができてインフラが整ってきますと、段々みんなの中で「私でもDXができるかもしれない」という雰囲気が、社内の中に生まれてきます。私は、会社全体にうねりを続かせたかったので、気を付けたポイントが3つあります。1つ目は、取り残されるのではないかという恐怖、2つ目は人事評価の恐怖、3つ目は仕事がなくなるのではないかという恐怖、これらを社員たちに思わせないために心理的安全をきちんと作っておこうと注意しておりました。ア)誰も置いていかないデジタル化まず、1つ目の、取り残されるのではないかという恐怖ですが、これについては「誰も置いていかないデジタル化」を掲げました。弊社は若手も多いのですが、検査員などは50歳代、60歳代の社員が活躍してくれています。まだスマホじゃなくてガラケーを使っている社員たちもいますので、そういった社員たちに「アプリ化する」と言った時に、抵抗を感じさせたくありませんでした。そこで、画面にちょっとした工夫を施してみました。画面に可愛らしい検査員の女性のイラストを置いてみるとか、画面のボタンを「記録スタート」1つだけにして迷わなくて済む仕組みにしたりしました。イ)DXで人事評価は落ちない2つ目の人事評価の恐怖というのも、誰しもあると思いますので、人事評価の中には入れないと決めました。弊社の人事評価には業績のほかにKPI(重要業績評価指標)というのがあるのですが、アプリを頑張った令和6年度上級管理セミナーファイナンス 2025 Mar. 71(7)アプリ第一弾:検査記録アプリ(8)一般社員への波及が始まった(9)うねりが続くように気を付けたこと

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