ファイナンス 2025年3月号 No.712
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連載セミナー 3.DX実現へのアプローチ4. 第1章 自社でDXが出来るようになるまで悪感がありました。「どうせやってもまた失敗するでしょう」という雰囲気が漂っていました。6つ目は業務のブラックボックス化です。システム上にデータがないため、属人化していて、誰がどのデータをどんな時に取っているのか、その情報がどこにあるのか、がブラックボックス化しておりました。これら6つの課題に加え、4年前にコロナ禍が起きてしまって、赤字が続いた月があり、社内がとても暗い雰囲気に包まれた時期がありました。この赤字がきっかけで、私もDXに踏み切らないと大変なことになるな、という危機感でDXに踏み切りました。崖っぷちのところから、一歩一歩取り組んだDXということでございます。次に実際にDX実現へのアプローチをどのようにして進めていったのか、ということをご説明させていただきます。まず、私が組織を改革するときに必ず頭に置いているのが「イノベーター理論」です。改革するときに、100人いたらいきなり100人を変えていこうとするのではなくて、正規分布表で言うと山の形をしたグラフの一番左端の部分、この2.5%の人たちをいかに巻き込んでいくか、ということをやっていきます。そして徐々に増やしていくのですが、この山に沿って実際に何を行動していったのかをこれからご説明します。まず、改革する前に心理学の先生を工場にお呼びして、全社員の性格診断を行ってもらいました。私は、この性格診断(「論理的」「創造的」「行動的」「調和型」「信念」「遊び心」の6タイプに分別)が非常に重要だと考えています。このため、このイノベーター理論を使う時に、次の山の13.5%までのところにはどういうタイプの人間を入れていくのかとか、次の34%までのところにはどういうタイプを入れていったらいいのか、ということもご説明したいと思います。まず初めの山の2.5%までの部分です。これはすごくシンプルです。とにかく「トップがどれだけ本気を見せるか」です。トップが本当にがむしゃらにやる、というのが今後の山を作れるか作れないかの勝負どころでして、例えば社員たちや部長に「DXを進めたいから、君たちで何かやってみなさい」などと言ったとしても、絶対に山は作れません。このため、とにかく初めはトップが現場に入ることがすごく大事です。ポイントは「現場に任せきりにしない」「リーダーが手を動かす」です。初めの2.5%が作れるかどうかは、トップのやる気次第です。「どうしてDXを始めるのか」「なぜこれが本当に大事なのか」を、私自身も自分の中にすごく問いかけて、すごく深いところまで腹落ちさせました。私の中で腹落ちさせて、その理由がちゃんと筋が通っていれば、社員たち一人一人に語ることができます。私たちがDXをやったのは、「従業員の幸福のため」です。みんなが幸せになるため、無駄な作業で大切な人生の1時間を費やしたりしてほしくない、ということをすごく語りました。松本興産の場合、とにかくExcelファイルが多く、それぞれの部署、それぞれの人で自由自在にExcelをカスタマイズして使っているような状況でしたので、Excelファイルが属人化しており、作成した人しかデータを読み解けませんでした。3年以上前、DXに取りかかった時に一番初めにやった作業は、Excelファイルを全部印刷したことです。生産管理部、製造部、品質保証部、経理部が持っているExcelファイル、それらを、本当にすごい量だったのですが、全部印刷しました。パソコン上でExcelのファイルを開いたところで、どうしても人間の脳は把握するのに限界がありますの令和6年度上級管理セミナーファイナンス 2025 Mar. 69(1)経営層が本気で舵を切った(2)Excelファイルが属人化(3)Excelファイルを全て印刷して考えた

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