SPOT 58 ファイナンス 2025 Mar.図表8 転換社債がある場合とない場合の各種リターンの整理転換社債がない場合転換社債がある場合(注)セル内は、(社債保有者の期待利得,株式保有者の期待利得)高リスクプロジェクト(0.39,0.52)高リスクプロジェクト(0.88,0.46)低リスクプロジェクト(0.77,0.48)低リスクプロジェクト(0.77,0.48)債を返済した後のリターンは下記の通りです。次に、リスクの高い投資をした場合のリターンは、その期待値を取り、下記のようになります。リスクの高い投資をした時の株主のリターン=0.5×0+0.5×(1.8−0.77)=0.52 …(2)ここで、株主はこの2つのプロジェクトを比較するわけですが、リターンは(2)>(1)であるため、リターンの最大化を考えるならば、株主はリスクの高い投資をしたいと考えるでしょう。一方、リスクの高い投資をした場合、負債の保有者のリターンはどうなるでしょうか。安全な投資を選択した場合は、負債の保有者は0.77が返ってきたところ、50%の確率でゼロになる可能性があるため、負債の保有者のリターンは下記の通りになります。リスクの高い投資をした時の負債の保有者のリターン=0.5×0+0.5×0.77=0.39上記で注意してほしいのは、この企業がリスクの高い投資をした場合のリターン(0.39)は、安全に運用した場合のリターン(0.77)を下回るということです。したがって、負債の保有者は安全な投資をしてほしいと考えています。もっとも情報の非対称性があるので、リスクの高い投資を防ぐことができません。こういった状況下では、株主と負債の保有者で利害対立があることが分かります。転換社債の導入そこで、この企業がCBを発行して資金調達をするとしましょう。ここで、このCBの保有者は、権利行使した場合、発行済み株式の49%に相当する株式にCBを転換できるとします。これにより株主がリスクの高い投資をすることを防ぐことができますが、以下でそのメカニズムを考えます。株主がリスクの高い投資をしたとしましょう。この場合、転換社債の保有者は、株式に転換することで株式の49%に相当する株式に転換できるので、リスクテイクで得られるアップサイドのリターンである1.8倍の49%を得られる事になります。この場合、転換した場合のリターンは、0.49×1.8=0.88であり、これは仮に株主が安全に投資した場合に負債の保有者が得られるリターン(0.77)を上回ります。したがって、CBの保有者は権利行使して株式に転換します。一方、この場合、株主のリターンはどうでしょうか。仮にリスクの高い投資をしたとしても、この状況ではCBの保有者がCBを株式に転換し、49%のアップサイドを持っていくため(アップサイドのリターンはCBの保有者とシェアされてしまうので)、株主のリターンは、リスクの高い投資をした時の株主のリターン=0.5×0+0.5×0.92=0.46と減少します。この場合、株主から見ても、安全な投資をしていれば、(1)から0.48が期待されるため、安全な投資を選択したほうがよいということになります。したがって、CBで資金調達をした場合、株主は安全な投資を選び、これは負債の保有者にとっても望ましく、負債の保有者と株主の対立が解消されるということになります。安全な投資をした場合の株主のリターン=1.25−0.77=0.48 …(1)
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