SPOT 9,000万株であるとしましょう。この場合、仮にCBが株式に転換されれば、発行済み株式総数は(転換されることにより1,000万株増加するので)1億株になります。したがって、株式に転換された場合、1,000万株/1億株=10%という形で、10%だけ発行済み株式総数が増えることになります*11。これは発行時点では転換されるかどうかわからないという意味で、潜在的に発行済み株式が増えることを意味します。この10%は、「潜在的な希薄化の比率(発行済み株式総数に対する潜在株式の比率)」といえます。なお、潜在的な希薄化の比率は、企業はCBの条件決定をした際、プレスリリースで開示されます*12。重要な特徴は、CBの発行額が増えれば増えるほど、転換されうる株式の数も増えるということです。例えば、同社がもし100億円ではなく、200億円の転換社債を発行する場合、200億円÷1,000円=2,000万株という形で、(もし株式に転換されることになれば)2,000万株が交付されることになるため、転換に係る株式発行総数が先ほどに比べ2倍になります。先ほどと同様、CB発行前の発行済み株式総数が9,000万株であれば、仮にCBが転換されることで2,000万株交付された場合、2,000万株/1.1億株≒18.2%の希薄化が起こります。上記に関し、注意点が2つあります。まず、CBについては発行時において潜在的な希薄化の影響から株価が下がる傾向が知られている点です。そもそも資金調達をした結果、より一層利益を上げることができるのであれば、理屈上、発行済み株式総数が増えたとしても株価が落ちるとは限りません。実際、CBを発行した際、発行体はその使用使途を投資家に対して説明します。しかしながら、実態として我が国において増資をした場合、株価が下がる傾向が指摘されます。特に近年では資本効率の声が高まっていることもあり、CBを発行する上で既存の投資家への配慮も、CBの発行の意思決定に影響を与えます。なお、実際の潜在的な希薄化の比率は発行されるCBごとに異なります(平均で10%程度です)*13。もう一点は、CBの場合、希薄化に伴い、実際に株価の低下がなされるタイミングが、CBが発行されるタイミングとは限らない点です。詳細は次回以降の論文で記載しますが、日本企業が発行したCBは典型的にはヘッジファンドなどの外国人投資家に保有されます。ヘッジファンドらは、CBの購入時点ではそのヘッジをするため、CBを発行した企業の株式のショートのポジションを作ります。これに伴い、CBを発行した企業の株価が下がります。CBの発行後、株価が転換価格に近づくにつれて株式に転換される可能性は高まりますが、ヘッジファンドはそれに伴いヘッジをしていくため、徐々に株価に影響を与えていきす。実際にCBに転換される場合は、(前述のとおり、タイム・バリューがあるので)満期日直前になる傾向がありますが、そのタイミングではすでに転換されるかどうかはマーケットに織り込まれているため(満期日近くに株価>転換価格であれば転換されると予想されます)、実際の転換時点では株価に影響を与えないとされています。本稿の最後に、ファイナンスのテキストでCBがどのような整理をされているかを議論します。まず、ビジネス・スクールで広く用いられているブリーリー・マイヤーズ・アレン(2014)を引用しようとおもいます。同書でCBについて触れている部分では、「企業が転換社債を発行する理由」という節で、読者に下記のような事例を紹介します。投資銀行が、あなたに現在の株価を幾分か上回る転換価格で転換社債を発行するよう説得しようという熱意をもって、アプローチしているとしよう。投資銀行の担当者は、投資家は転換社債であれば低い利回りを受け入れる用意があるので、転換社債は普通社債よりも「安上がり」の負債であると指摘している。あなたは、会社の株式が期待しているような良いパフォーマンスを示せば、投資家は社債を転換するという見通しを持っている。投資銀行の担当者は「それであればとても良いことです。転換社債(CB)入門ファイナンス 2025 Mar. 55*11) 希薄化の計算として1,000万株/9,000万株≒11.1%とする考え方もあります。*12) 発行条件等に係るプレスリリースの中で開示される傾向があります。*13) この値は2010年から2024年における公募のCBから算出しています。3.CBのファイナンス理論的な説明
元のページ ../index.html#59