ファイナンス 2025年3月号 No.712
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*ここでは典型例としてクーポンがゼロケースを挙げています*ここでは典型例としてクーポンがゼロのケースを挙げています2.4 CBのキャッシュ・フロー…SPOT 54 ファイナンス 2025 Mar.5年債のCBを買った場合を考え、そのCBのキャッCBのキャッシュ・フローは図表5の通りです。これなお、実際に発行される転換社債には、株式に転換される以外のオプションが複数含まれることが少なくないですが、本稿では冒頭で述べたとおり、まずは最もシンプルなケースで考えています(その他のオプションについては次回の論文で説明します)。服部(2023, 2025)でも強調しましたが、債券を考える上では、その債券が生み出すキャッシュ・フローを理解することが大切です。これまで時間の流れを明示せずに議論してきましたが、ここからは読者がシュ・フローを考えていきます(もし読者が買い手ではなく発行体である場合、CBを発行した場合のキャッシュ・フローは逆になる点に注意してください*8)。改めて強調しますが、CBの重要な特徴は、株式に転換する権利を行使したかどうかでキャッシュ・フローが異なる点です。まず、権利行使しなかった時のは読者がCBを購入した時のキャッシュ・フローですが、読者は当初100円を支払います*9。期中は(典型的には)クーポンはもらえず、株式に転換しない場合、満期である5年後に100円返済されます*10。権利行使されない場合は、クーポンが支払われないゼロ・クーポン債(割引債)のようなキャッシュ・フローとなります(「CBの価値=社債の価値+株式転換オプションの価値」としましたが、この際、「社債の価値」はゼロ・クーポン債の価値になります)。もっとも、これは株価が転換価格より低く推移し、読者がオプションを権利行使しなかった場合のキャッシュ・フローです。それでは、読者がオプションを権利行使して、CBを株式に転換する場合はどうでしょうか。そのキャッシュ・フローを示したのが図表6です。CBにおける株式への転換は、(前述のとおり、タイム・バリューがあるので)通常、満期に権利行使されることから、ここでは満期時に権利行使する例になっています。権利行使されることにより、ゼロ・クーポンである債券が株式に転換されるため、読者は株を保有することになり、以降、配当が得られるということになります。この図では、読者が転換後も株式を保有し続けることを想定しましたが、もちろん転換された株式を売却することもできます。この場合、その売却で得られるキャッシュ・フローが売却時にたつことになります。社債と比較した際のCBの特徴は、満期において株価が転換価格を超えた場合、株式に転換されることです。それにより発行済み株式総数が増えますが、それに伴って一株当たりの持分が減少することになります。これを希薄化といいます。CBの場合、株式の発行に比べて、必ずしも希薄化を伴うわけではありませんが、社債に対して、潜在的に希薄化がありえる点が特徴といえます。先ほど、100億円の転換社債があり、転換価格が1,000円のケースの場合、1,000万株が交付されるという事例を考えました。ここで、発行済みの株式総数が図表6 CBのキャッシュ・フロー(株に転換する場合)時間図表5 CBのキャッシュ・フロー(株に転換しない場合)発行時期中はクーポンはゼロ*100円期中はクーポンはゼロ*発行時100円株式に転換されるため配当が支払われる時間株式に転換5年(満期)100円5年(満期)*8) 実際の発行価格は通常、100円を超えます。例えば、103円で発行された場合、発行体はそこから発行手数料を除いた金額を資金調達できます。*9) 厳密にはクーポンがゼロでない場合もありえますが、円債市場においてはクーポンがゼロのCBが多いため、ここではゼロを例としています。*10) ここではこの執筆時点での典型例を用いている点に注意してください。また、実際には発行手数料などがあるため、発行時の単価は100円以上の値になります。2.5 CBの発行に伴う潜在的な希薄化

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