ファイナンス 2025年3月号 No.712
55/98

SPOT れることで100円もらい、20円を追加で払って1株買うこともできます。しかし、権利行使をしてCBを株式に転換し、1株受けとり、その株をマーケットで売れば、読者は120円得られる事になり、20円の利益が得られることになります。したがって、読者は転換価格を株価が上回ったら、権利行使したほうが良いことが分かります。また、例えば、5年後に株価が150円になれば、前述のロジックで、読者の利益は50円になりますから、株価は上がれば上がるほど読者にとって利益が上がることがわかります。このように、読者がCBを保有している場合、転換価格(行使価格)以上に株価が上がれば権利行使するメリットがあるし、株価が転換価格を下回れば権利行使せずに社債として償還することが得な商品性になっています(図表1を参照)。実際の例ここまでわかりやすさを重視するため100円を軸に考えましたが、ここでもう少し実際に即した例を考えます。例えば、ある企業が5年の転換社債を100億円分発行し、転換価格が1,000円であるとしましょう。先ほどと同様、5年後、もし株価が転換価格である1,000円を超え、CBの保有者が権利行使した場合、CBの保有者には、100億円÷1,000円=1,000万株が交付されることになります。転換価格が1株1,000円の場合、1,000万株発行すればCBの元本に相当する100億円分調達できるということが、株式への転換で出てくる株数に関する考え方です。また、前述の例では、単純化するため、CB発行時の株価と転換価格が同じケース(両者とも100円のケース)を考えましたが、実際には、発行時の株価と転換価格が異なることが一般的です(通常、転換価格の方が発行時の株価より高く設定されます*5)。例えば、読者が1億円分のCBを持っており、発行時の株価が1,000円であり、行使価格が1,250円であるとしましょう。この場合、権利行使をすることで、8万株(=1億円/1,250円)もらえるという仕組みになります(転換価格が1株1,250円の場合、8万株発行すればCBの元本である1億円に相当するということです)。を投資家に提供している商品と言えます。まずは単純なケースを考えてみましょう。ある会社(A社)が年限5年のCBを出したとします。その際、CBの額面金額も単純化して100円とします(つまり、企業から見ると、発行時に100円調達して、満期である5年後に100円返済する債券です)*4。さらに、発行時点の株価は100円であり、株式に転換する価格(転換価格)も100円とします(つまり、CB発行時の株価=転換価格のケースを考えます)。そのうえで、読者がこのCBを保有しているとしましょう。読者は、今から5年後までのうち、自由なタイミングで権利行使をして、株式に転換することができます。CBでは、読者がこの転換の権利を行使した場合、(この単純化されたケースでは)社債の代わりに、1株(=CBの額面金額100円/行使価格100円)もらえるという商品性になっています。読者がその権利を行使したタイミングで、CBを発行した企業は株式を発行する(増資する)ことになります。読者が行使しなければ満期に100円戻ってきます(増資はなされません)。読者は株式に転換するオプションを持っているため、前述のとおり、このオプションを行使してもよいですし、行使しなくても問題ありません。それでは、どのようなときに行使すべきでしょうか。満期である5年後を考えると、5年後にはA社の株価が上がっている可能性もあるし、下がっている可能性もあります。例えば、株価が下がって、5年後に100円から80円になっていたとしましょう。このことは、5年後、マーケットで読者が80円払えば、A社の株を1株買えることを意味します。つまり、5年後、CBを持っている読者は、株に転換しなければ、社債のまま満期に100円が得られるのですから、株式に転換をせず、償還を迎えて、受け取った100円から80円を支払って株式を得る方が得ということになります。したがって、読者には、このオプションを権利行使して株式に転換するインセンティブはありません。一方で、5年後に株価が120円になったとしましょう。この場合、オプションを権利行使せずにCBが償還さ転換社債(CB)入門ファイナンス 2025 Mar. 51*4) ここでは単純化のために100円をベースに考えますが、実際には100万円や1000万円などが最低投資単位になります。*5) この比率をしばしばアップ率といいますが、アップ率については次回の論文で説明します。2.2 具体例

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る