2.1 CBは「債券」SPOT 50 ファイナンス 2025 Mar.本稿は転換社債(Convertible Bond, CB)について説明することを目的にしています。転換社債とは、債券でありながら、保有者の判断により株式に転換できる金融商品であり、債券のテキストで紹介されるスタンダードな金融商品の一つです。CBは、株式と債券のハイブリットの有価証券ともいえるため、ハイブリッド債とも区分されます。筆者の意見では、CBは金融市場で広く知られているものの、その詳細について説明した文献は少ないのが現状です。そこで、ここから数回にわたり、CBを包括的に説明しようと思います。第一回である本稿では、まず最もシンプルなCBを考え、その特徴を説明します。実際のCBには、様々なオプションが含まれていますし、発行体や投資家の視点でCBを考えるなど、多面的にの論点については次回以降、議論していく予定です。また、実務家がCBを説明した資料では、コーポレート・ファイナンス理論による議論が不足しています。そこで本稿では、ビジネス・スクールなどで用いられるコーポレート・ファイナンスのテキストでCBがどのように説明されるかを紹介し、CBを発行することでどのような問題が解決されるかなど、CBの意義についても説明します。なお、ここから数回にわたりCBについて説明しますが、CBの有する特徴について包括的に議論する一方、デリバティブ(特にオプション)やコーポレート・ファイナンスの基本は紙面の関係上、前提とさせていただきます。債券の基本については服部(2023, 2025)などを参照いただきたいのですが、オプションなどデリバティブについては、これまでの債券入門シリーズで説明しているため、筆者のウェブサイトを適時参照してください*2。CBとは、正確には、転換社債型新株予約権付「社債」であり、この名前からもわかるとおり、基本的には「社債」(債券)です。もっとも、CBには、保有者が満期までの自由なタイミング*3で株式に転換できるというオプションが内包されています。そのため、CBは債券の一種ですが、株式の特徴も有する商品といえます。CBは転換社債型新株予約権付社債だと説明しましたが、そもそも、新株予約権とは、事前に決められた条件で株式を購入する権利です。例えば、5年後に、ある会社の株式を1株100円で購入することができる権利を指します。このように、新株予約権では、あらかじめ条件や金額が決まっている点が特徴ですが、大切なのは、これは「権利」(オプション)であり、保有者が行使したければすればよく、行使したくなければ行使する必要はない点です。また、オプションを購入するにあたっては、相応の費用を支払う必要がある点も重要です。CBの重要な特徴は、このオプションを権利行使できる主体は、CBを発行する企業(発行体)ではなく投資家であるということです。ただし、投資家は株式に転換できるオプションを有する一方で、普通社債と比べ、典型的にはクーポンはゼロになるなどクーポンが抑えられています。発行体から見ると、CBはクーポンを抑えられる一方で、株式に転換するオプションCBを議論することが大切です。紙面の関係上、それら*1) 公共政策大学院 特任准教授*2) 下記を参照https://sites.google.com/site/hattori0819/*3) 後述するとおり、CBにはいつでも権利行使できるアメリカン・タイプのオプションが内包される傾向があるため、ここではそれを前提とした説明になっています。東京大学 服部 孝洋*12.CBの基本的な設計1.はじめに転換社債(CB)入門―基礎編―
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