SPOT を拒絶されていた。移民は非市民であるか、新参の市民である。2025年2月、アメリカの成人の59%が、トランプが不法に米国に住んでいる人々を強制送還する取り組みを強化することに賛成していると回答しており、そのうち35%が強く支持している(Pew Research Center, 2025)。もちろん、これはサーベイへの回答であり、熟議の結果ではない*17。それでも、暗澹とさせられる結果である。トランプが中位投票者を取ったことが事実だとしても、そのことはトランプが正しいことまでを意味するわけではない。理想に達するには、気の遠くなるような時と努力と知恵が必要なのかもしれない。ルソーの伝統が真理や理想を巡る暗い緊張感に包まれているのに対し、マディソンの伝統は、競争や抑制均衡がまずまずの状態をもたらすという、予定調和の楽天的色どりのなかにある。各プレイヤーは自身の利害と価値を追求に尽力すればよい。他のプレイヤーと競いあっていれば、悪くない均衡へと導かれていく。マディソンの伝統に属する社会科学者の優れたところは、競争がなぜまずまずの均衡に至るのか、メカニカルな経路を特定する努力を惜しまないことである。モ人々が怒りを感ずるのも同じ道理である。それでも、ルソーの処方箋の本当の問題は、社会的連帯の途切れるところからはじまる。社会科学者たちが暗黙に期待した合意が得られない時、合意を受け入れない人たちを理性的存在の範疇から追放することが起きている。ルソーの伝統に属する論者は、まず、自身の理想に達するには時間がかかることを受け入れる必要がある。そして、自身の抱く理想を疑うべき場面があることを知る必要がある。理想を共有しない人々と連帯できなければ、政治共同体は成り立たない。重なり合うコンセンサスのうちにいるとは思えない人たちとも連帯することができなければ、むき出しの潰し合いか、離れて暮らすしかない。さらに難しいのは、ここからである。ジャクソンを大統領に押し上げたコモンマンは、先住民への迫害という点で道徳的に擁護できない願望を抱いていた。熟議を尽くしたところで、合意に入ることを拒否する者はいるし、そのような者が多数を占めることはしばしば起きてきた。このようなハードケースは、特にメンバーシップやシティズンシップといった社会的連帯の境界で起こりやすい。先住民は市民ではなかった。黒人はかつて市民権表3.6:分断への処方箋*17) フィシュキンらの報告(第五回の図3.6)では、熟議を通じて、共和党支持者の(集団の外部の存在である)移民への態度が軟化している。フィシュキンらの質問のなかには、「高スキル労働者のビザ増を支持」のように、集団(アメリカ経済)の利益に移民が役立つというロジックに説得されやすいものがある。ただ、不法移民の送還の支持者も減っている。熟議をすることで、境界の外側にいる人たちへの敵対的態度は緩むのかという点は問題の核心である。アメリカにみる社会科学の実践(第六回、最終回)アプローチ民意の正確な反映‐鏡を磨く競争と抑制均衡社会的連帯の拡充・ルソーの投票・熟議民主主義・選挙人団の廃止、上院議員の数を州の人口に比例化、下院の比例代表制・キャンペーン・ファイナンスへの対応(公的補助、将来的には規制か)・「言論の自由市場」の機能補完(ファクト・チェック、名誉毀損、広告費用の出し手の開示、報奨金制度、見出しの工夫、馴染みではないメディアに触れる機会の提供)**修正第一条(表現の自由)の枠内の対策・三権分立(マディソン)・政党間競争・連邦と州の抑制均衡・政府と民間(リバタリアン)・歴史的経験(政治的対立・競争を通じた繁栄)・少数派を保護する投票制度(QV、SV)、公共の利益を促す資源配分制度(QF)・再分配(直接的な再分配、事前の配分)・社会的連帯の基盤に関わる原理的な議論(所有の脱神話化、無知のベール、運の平等主義)・社会評価の方法の見直し(費用対便益分析の改革、主観的ウェルビーイング)*再分配は分断を癒す。*社会的連帯がなければ、「民意の正確な反映」、「競争と抑制均衡」という二つの処方箋はともに機能しない。連帯がないところに、ひとつの真なる民意は存在しない。連帯がないところでは、競争を行うべき競技場を設定することができない詳細ファイナンス 2025 Mar. 45
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