SPOT アメリカにみる社会科学の実践(第六回、最終回)(出典)筆者撮影(2023年3月22日)*11*12*13ファイナンス 2025 Mar. 39とができる。在、州が設置した委員会の監視・監督の下、計画に基づく財政再建の取組みを進めている。再建論議の際、市職員の年金の扱いが焦点のひとつとなったことから、年金が破綻の原因のように語られることもあるが、真の問題は人口減に伴う税源の喪失である。デトロイトは1950年代の終わりに200万弱の都市になったものの、その後、人口が減り続け、破綻後も人口は減り、現在は60万人ほどとなっている。背景には製造業の衰退のほか、人種問題がある。南部から黒人が流入し、白人の流出が増え、現在ではほとんどの人口が黒人になっている(2020年で77.7%)。人口の減につれ、サービスの維持に支障をきたすようになった。そのために税率を上げると、周辺に比べて重い負担を嫌気して、ますます人口が流出する負のスパイラルに陥った。都市部の荒廃と郊外の繁栄はデトロイトに限った話ではないが、デトロイトでは特に激しいものとなった。市の中心部への投資、市域の拡張など打つべき手があったはずだが、黒人の市長と白人が多数を占める議会の協力もうまくいかなかったという。破綻後、マイク・ドゥガン市長(白人)のもとで、デトロイト市はサービスの回復に取り組み、一定の成果を上げている。ただ、根本の問題が解決したわけではない。低い人口密度が、インフラ、サービスの維持を困難化する状況は変わらない。図3.18(a)は、市街中心のGM本社から車で五分程度の通り(Chene Street)の現況である。図3.18(b)はその通りの市街での位置関係を示す。この通りはかつて市電の走るにぎやかな場所であったが*12、現在はほとんど更地になっている*13。図3.19の示す通り、市の一般会計(general fund)歳入は、2023年度、1,200百万ドルで、固定資産税、所得税、州税の分与のほか、カジノ税等からなる。破綻後も収入は低迷しているが、租税はすでに州の認める上限税率で取っており、カジノ税への依存が高まっている。富裕な周辺自治体との格差は、人材確保の障害にもなっている。警官の給与は周辺自治体の方が高く、デトロイトの警察学校で訓練を受けても、周辺自治体に流出してしまう。周辺自治体を市域に取り込もうにも、市の税負担は重く、同意を得る見通しはない。市では周辺自治体によびかけて、交通に関する経費だけでも負担金を出してもらえるよう交渉している。負のスパイラルは、現在もデトロイトを捕えている。それでも、まったく希望がないわけではない。市はミシガン州とも協力し、企業誘致に努めている。2023年の人口は、63万3千人と前年比2.1%の増と、1957年以来の増加となった。図3.18(a)デトロイト市Chene Streetの現況*11) デトロイトの現況に関しては、The Citizens Research Council of Michigan (2022)を参照したほか、市当局へのヒアリングに基づく。*12) 往時のChene Streetの様子は、ミシガン大学のChene Street History Project (https://sites.lsa.umich.edu/detroitchenestreet/)に偲ぶこ*13) デトロイト市によると、更地の草刈りだけでも市には重い負担がかかっているという。コラム3.7:ミシガン州デトロイト市の現況デトロイト市は、2013年7月に連邦破産法第9章に基づく破産申請を実施した*11。同市の人口は 71 万人(2010 年センサス)、負債規模は 180 億ドルを超え、米国史上最大の自治体破産となった。2014 年 12 月 には同市の再建計画に相当する「債務調整計画」が発効した。同計画は70億ドル以上の債務削減(一般財源保証債の元本削減、州憲法で保護された職員年金の削減を含む)や市の再生に向けて新たな投資を行うことなどを盛り込り込んだ。現
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