図3.16: コロラド州下院の民主党議員によるQVの投票結果 ワイルらは、クアドラティック・ファンディング(Quadratic Funding, QF, 二次関数的な資金供与)というアイデアを持っている(Buterin et al., 2018)。QFが対応するのは、QVとは逆の問題、すなわち多くの者が少しだけ気にかけている議案である。QFでは、各議案への拠出は、個人からの拠出にマッチング・ファンドからの拠出を加算して決まる。ファンドからの拠出に際しては、議案に対する各人の拠出の平方根(ルート)をとって足し合わせ、この二乗を計算し、この値に比例してマッチングプールの資金を配分する。QFでは、議案に(少額でも)拠出する人の人数が多ければ、その議案への配分が増える。平時の国防のほか、気候変動など公共の利益に関わる議案に有利な配分ルールである。ただし、QVやQFのような趣旨の異なる仕組みをどう組み合わせ、社会全体をどう設計するかという点は明らかでなく、今後の課題として残されている。さらに、少数派の置かれた状況の基礎的な困難に鑑みると、QVやSVに少数派保護のすべてを委ねることもできない*10。QV、SV、QFは、ルソーの投票や熟議と同じく、唯一の正しい解に到達する手続きのようにみえるかもしれない。しかしながら、QVなどにインプットされる個人の利害は、熟議の際のような反省や和解を通じた変容を被るわけではない。ルソーの投票の場合のように、社会にとって何が良いかを考えて投票すると予め縛りをかけた上で投票を始めるわけでもなく、単に個人の利害に基づいて投票するだけである。多様な利害を持つ人々が、マディソンの連邦制への参加を通じてある社会状態に至るのと同じく、QVなどへの人々の参加を通じ、ある社会的決定が下されるだけのことである。QVやSVのもたらす決定は少数派に配慮した決定となるが、このことは連邦制を通じて少数派の保護が図られるのと変わらない。QVについては、その実践例があらわれている。2020年、コロラド州議会の民主党は、議会における立法への所属議員の優先順位を把握するために、QVを活用した(RadicalxChange, 2021)。優先順位は議案を議会に付託する順序に影響し、付託の順序は議案の成否を左右する。図3.16は、州下院の民主党議員による投票結果を示したものである。投票の結果、「同一労働同一賃金法案、Equal Pay for Equal Work Act」が60票を獲得してトップとなった。テネシー州のナッシュビル議会では、2023年度予算に必要な法改正の優先順位を決めるためにQVを活用した(Forbes, 2022)。これらの実践に技術的支援を行う非利益団体RadicalxChangeによると、実践ではQVを最終的な決定者への勧告と位置づけている。勧告と最終的決定との差は小さく、また、QVから変更する場合、その理由を説明することで、決定者が独断で決めるよりも透明性が高まったという。より簡素なSVについては、類似の累積投票(cumulative voting)としては古くから実践例がある。アラバマ州のある郡では、道路の舗装の要否を決める委員の人選を通常の投票で決めていたが、黒人が委員を出すことができず、黒人の多い地域で舗装が進まなかった。このため、累積投票制を導入し、黒人が黒人の委員候補に票を集中できるようにしたところ、黒人も委員を出せるようになり、黒人の望む舗装が進んだという(Kirksey et al., 1995)。アメリカにみる社会科学の実践(第六回、最終回)(横軸:議案、縦軸:得票)(出典)RadicalxChange(2021)に基づき、筆者作成ファイナンス 2025 Mar. 35*10) この問題を解決するには、原理的には、公共的な領域を極小化することが必要である。この方法は、特殊な好みを持つ、少数派の金持ちにおいては、上手く機能する。その金持ちは自分のカネを自分の望まない政策に使われることを避けることができる。問題は、現実社会の少数派が人種的少数派のように、少数派でありながらも、公共的な決定に属する領域を広げることに利益を見出していることである。図図□□□□□□□□□□□□ココロロララドド州州下下院院のの民民主主党党議議員員にによよるる□□□□のの投投票票結結果果((横横軸軸::議議案案、、縦縦□□議議案案11::□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□議議案案22::□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□議議案案33::□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□議議案案44::□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□議議案案55::□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□議議案案□□□□□□□□::略略□□議議案案□□□□::□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□(出典)□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□に基づき、筆者作成□ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□SPOT
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