ファイナンス 2025年3月号 No.712
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――図図□□□□□□□□□□□□上上院院ににおおけけるる議議席席比比率率、、上上院院議議員員のの代代表表すするる国国民民のの比比率率((□□□□□□□□□□□□□□年年□□月月)) □(注)議席比率は上院の定数□□□のうちの両党の議席比率。代表する国民の比率は、議員の選出州の人口を考慮した、両党の上院議員が代表する国民の比率(上院議員をもたないワシントン□□等の住民を考慮しない)。 (出典)筆者作成 42465054議議席席比比率率代代表表すするる国国民民民民主主党党共共和和党党SPOT 32 ファイナンス 2025 Mar.は、キャンペーン・ファイナンスのあり方も問題になる。マーチン・ギレンス(Martin Gilens、UCLA)らは、キャンペーン・ファイナンスへの規制を表現の自由に基づいて違憲とした、連邦最高裁のCitizens United判決(2010)以降、法人所得税率の押し下げが起きていることを統計的に確認している(Gilens の1,779件の政策事案について、1)サーベイや利益団体の行動により表出された見解と、2)実際の政府の行動を比較している(Gilens and Page, 2014)。その比較から、代表的な政治理論(1. 多数派選挙民主主義、2. 経済エリート支配、3. 多数派多元主義、るかを検証し、表3.2の示す通り、実際の政治は平均的市民の利害には鈍感で、経済エリートやビジネスの利害に敏感であることを示している。(第五回の)コラム3.4でみた通り、銃規制のような便益が分散する施策を促す献金は過小にしか供給されない。表現の自由の見地から献金は規制を受けないというのが財を区別する経済学の見地からすれば、なんらかの規制が正当化されるはずである。献金を野放しにすると、富裕な者の私権が拡張し、公共の利益が後退することが予想される。ギレンズらの二つの研究は、この予想を実証するものである。しかしながら、保守派優勢の連邦最高裁の構成を踏まえると、Citizens United判決の見直しが近いうちに実現する見通しはない。このため、連邦レベルでの取り組みは、コラム3.4でみたキャンペーン・ファイナンスの透明性の向上に止まっている。ただ、地方では改革が試みられている。シアトルでは、有権者にひとり一定額のクーポンを配り、そのクーポンを好みの候補者のキャンペーンに献金できるようにしている。ロサンゼルスはマッチング・ファンドを試みている。有権者が献金するとその献金額に応じた資金が当局から候補者に支給される。マッチング・ファンドを受領するには、候補者は大口献金を受け取らないという制約に服する必要がある。これらの取り組みは、経済学からみると、過小供給にある公共の利益を志向する献金に補助を与えるのと同じである。もっとも、巨額の献金に対抗するのは容易ではない。そして、政治家に納税者の金を与えることに反対の声もある。民意の反映という意味で、もうひとつ問題となるのが有権者のおかれる情報環境である。2024年の選挙では、移民が猫や犬を食べているという、トランプがハリスとの討論会(2024年9月)で拡散した話など多くの偽情報が流れた。なかでも払拭の難しい偽情報に、移民の犯罪率が高いというナラティブがある。NPR(2024)によると、そのナラティブは専門家により繰り返し否定されている。スタンフォード大学の研究者によると、1960年代以降、移民が投獄される蓋然性はアメリカ生まれの者よりも60%も低かった(Abramitzky et al., 2024)。累次の訂正にも関わらず、移民と犯罪のナラティブはしつこく再生し、共和党の政治家はこれを利用してきた。情報環境の悪化は実害を伴う。レオナルド・ブルシュティン(Leonardo Bursztyn、シカゴ大学)らは、オピニオン番組の影響で、ワクチンが忌避され、死者まで出ていることを統計的に示している(Bursztyn et al., 2022)。Foxニュースの中でも、コロナの脅威を訴えるアンカーの番組(Tucker Carlson Tonight)と、ワクチンに批判的なアンカーの番組(Hannity)があり、その視聴者を比較したところ、後者を視聴する地域では、視聴et al., 2021)。また、ギレンズらは、1981~2002年4. 歪んだ多元主義)のうち、いずれが実際に妥当すCitizens United判決の法理であるが、私的財と公共図3.15: 上院における議席比率、上院議員の代表する国民の比率(%, 2025年1月)表3.2:代表的政治理論とその現実との妥当性(注)議席比率は上院の定数100のうちの両党の議席比率。代表する国民の比率は、議員の選出州の人口を考慮した、両党の上院議員が代表する国民の比率(上院議員をもたないワシントンDC等の住民を考慮しない)。(出典)筆者作成(注)***:1%有意。決定係数(R-sq)でみた一番当てはまりの良い理論は、歪んだ多元主義で、経済エリートと利益団体の選好に正の係数がついている。(出典)GilensandPage(2014)に基づき、筆者作成政治理論平均的市民経済エリート利益団体R-sq多数派選挙民主主義0.64(0.08)***―経済エリート支配―0.81(0.08)***―0.310.49多数派多元主義―歪んだ多元主義0.03(0.08)0.76(0.08)***0.56(0.09)***0.740.59(0.09)***0.28

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