SPOT and Ziblatt, 2023)。具体的には、選挙人団のよる大統領の選出、各州への連邦上院議席の均等(二名ずつ)配分、上院でのフィリバスターなどの少数派保護のための議事手続き、司法部門の独立を確保するための連邦最高裁判事の任期無制限などをやり玉に挙げる。直近の2024年の大統領選挙でのトランプの得票はハリスを上回ったものの、2000年のブッシュ(子)の最初の選挙、2016年のトランプの最初の選挙では、ナショナルな得票率で共和党は民主党に劣後していた。白人の人口比が漸減し、人種・民族的多様性を高めつつあるアメリカで、共和党は次第に縮小する支持基盤に依存している。(第五回にみた通り)アメリカ人は相対的にリベラル化しつつあり、共和党が選挙に勝つことは難しくなりつつある。図3.15は、2024年の選挙結果を踏まえた、上院の勢力をもとに、1)党派別の議席の比率、2)各州の人口に基づいて各党がどの程度の割合の国民を代表しているかを比べたものである。共和党は、議席では53議席と民主党の47議席を凌駕するものの、代表する国民の比率では46.5%となり、53.5%の民主党の逆転を許す。レベツキーとジブラットにすれば、不平等な選出の仕組みによって共和党の上院の議席が上積みされ、富裕層に有利な政策が進められていることになる。連邦最高裁判事等の指名を通じて、中絶の権利の撤回などの民意に沿わない司法判断が進められている。共和党が上院で過半数を失った場合でも、フィリバスターにより、思い切った再分配や黒人の投票権の擁護など権利保護策が阻止されてきた。レベツキーとジブラットが勧告するのは、大統領選挙での選挙人団を廃止し、全国的な一般投票に置き換えることや、上院議員の数を州の人口に比例させることのほか、下院での小選挙区制の廃止と比例代表制の導入などである。民意を正しく政治に反映するという問題意識からファイナンス 2025 Mar. 315.分断への処方箋(1)民意の正確な反映−鏡を磨く分断に対し、社会科学者たちはどのような処方箋を示しているのか。多様な処方箋を、1)存在するはずの正しい解の社会への正確な反映を図るもの、2)多様なプレイヤー間の競争、抑制均衡を通じ、より良い状態を展望するもの、3)社会的連帯(solidarity)を拡充するものの三つに集約する。第一の処方箋がルソーの伝統に沿った戦略であり、第二がマディソンの伝統に基づく方法であることは、もうお分かりだろう。第一と第二の処方箋が政治過程に焦点を当てるのに対し、第三の処方箋は政治過程が働く基礎に関心を向ける。第一の処方箋は、正しい解が社会に正確に反映されるよう、政治過程という「鏡を磨く」ものである。善き民意なるものがあるにも関わらず、現実の政治の歪みが、その民意の反映を挫くことがある。その対策は政治の鏡を磨くことである。そのような処方箋を持つ社会科学者の代表として、前回(第五回)、フィシュキン、ランデモアなどの熟議民主主義者を挙げた。ランダムに選ばれた市民からなる小規模の会議体は社会を正確に映し出す鏡であり、その会議の見解を社会の決定とすることは正統なことだと主張する。理性的な熟議を経て表明された意思は、ランダムサンプリングに基づく世論調査になぞらえられる。フィシュキンのdeliberative pool(討論型世論調査)という言葉は、この小規模な会議体での熟議に込められた特別の意味を集約している。ハーバード大学のレベツキーとジブラットも、鏡を磨くことを提案する政治学者である。彼らは「Tyranny of the Minority(少数派による暴政)」と題した最近作で、合衆国憲法をはじめとするアメリカの統治制度が内蔵する少数派の保護の仕組みが、いまや少数派たる共和党による暴政をもたらしているという(Levisky 財務総合政策研究所客員研究員 廣光 俊昭―アメリカの民主主義(2)アメリカにみる社会科学の実践 (第六回、最終回)
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