SPOT では、どのような要素が地価の格差を生じさせているのだろうか。さらに、地価が高いエリアと低いエリアとでその関係性の強弱に差異はみられるだろうか。先行研究では、人口動態と地価の関係性が指摘されている(Mankiew and Weil, 1988; Tamai et al., 2017; Takáts, 2012)。中村・才田(2007)は、居住人口の増加による土地需要の高まりによって、地価が上昇する可能性があると指摘する。こうした先行研究の指摘を踏まえると、たとえば、都市の中心部や職場(雇用機会)へのアクセス、充実したインフラ、優れた子育て環境などの都市アメニティを備えているエリアは、子育て世帯をはじめとする多様な世代の人々を惹きつけ、他の市区町村からの転入を増やし、地価が高くなる傾向があると考えられるだろうか。他方で、一人当たり所得と地価の関係を分析した先行研究(光多ほか,2012)があるが、高賃金を支払える企業が集積するエリアでは、所得の高い人々が居住し、地価も高くなるかもしれない。本調査の関心の一つである、三大都市圏等とそれ以外の地域とで地価の格差が生じる要因を検討するにあたっては、ヘドニック・アプローチ的*1な視点を持ちつつ、マクロ経済要因を考慮することが必要かもしれない。以上を踏まえ、本調査では、以下の三つの要素と地価の関係性を分析した。(ア)出生率(出生数/人口)(イ)純転入者人口比率(純転入者数/人口)(ウ)一人当たり所得(課税対象所得/人口)上記の(ア)出生率、(イ)純転入者人口比率、(ウ)一人当たり所得について、それぞれ市区町村別のデータをマッピングした(図3)。いずれのマップも、三大都市圏をはじめとするエリアにおいて色が濃くなっている。このマップは、先にみた図1を想起させ、高地価エリアでは、(ア)(イ)(ウ)も高いという関係性を暗示している。この定性的な分析を踏まえ、地価が高い市区町村と低い市区町村に分けて、地価と(ア)(イ)(ウ)との相関を確認した(図4)。その結果、高地価の市区町村では、一人当たり所得と地価の間に強い正の相関が観察された一方、低地価の市区町村では、高地価の市区町村と比べ、出生率と地価の間に相対的に強い正の相関がみられた。しかし、この結果からは、関係性の強さやその統計的有意性を、複数の変数を考慮した上で確認することはできない。そこで、被説明変数を「地価」、説明変数を「出生率」、「純転入者数」、「一人当たり所得」として、重回帰分析を実施した。その際、高地価/低地価の市区町村の各ケースにおいて、地価と(ア)(イ)(ウ)の関係性に差異がみられるかを確認するため、(1)全ての市区町村、(2)高地価の市区町村、(3)低地価の市区町村の三つに分けて分析をした(表1)。管内経済情勢報告における特別調査(令和7年1月)の結果について(表1)重回帰分析の結果(図2)三大都市圏の地価1994年*1) 地価変動の要因を分析するにあたっては、ヘドニック・アプローチ(Hedonic Pricing Approach)と呼ばれる手法がある。この手法は、地価が土地や住宅に関する特性(面積、都心からの距離、自然環境、社会環境等)によって形成されると考え、地価と関係する要因を、回帰分析を用いて分析するものである(Rosen,1974)。さらに、地価に影響を与えるマクロ経済要因(所得水準や人口動態など)を考慮し、地価や住宅価格の形成要因を分析する研究もある(例えば、Mankiw and Weil,1988、中村・才田,2007)。2014年2024年(1)全ての市区町村6956.21*-876.97204.95***0.5516,883係数(2)高地価の市区町村19149.95(3)低地価の市区町村19119.61***6075.5351422.05***326.82***23.23***0.722,3040.3114,579ファイナンス 2025 Mar. 27※1 「高地価の市区町村」を平均地価が7万円以上、「低地価の市区町村」を平均地価が7万円未満としている。※2 ***p<0.001、**p<0.01、*p<0.05※3 全ての説明変数において、分散拡大要因(VIF:Variance Inflation Factor)は5未満であり、多重共線性の問題は観察されなかった。※4 2014~2023年のデータを使用。地価(円)出生率(%)純転入者人口比率(%)一人当たり所得(千円)補正R2観測数3.地価の地域間格差をもたらす要因は何か4.地価と三つの要素に関する分析
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