ファイナンス 2025年3月号 No.712
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SPOT 22 ファイナンス 2025 Mar.COPが国連の枠組下で行われるため国連スタイルの会10年のうち、予定会期内に会議が閉会したのはたっでは、休息日以降は来場者が一気に減少していた。これは、前節で述べたように、ハイレベルの参加者は主に前半1週間に集中することがその理由であると考えられるのだが、お祭りムードが概ね過ぎ去り、そこから先はいよいよ本格的な国際交渉の場に切り替わるということが、目に見えてわかる情景である。さて、では、具体的にどのように交渉が進められるかについて述べることとしたい。交渉と名がつくとやや仰々しいが、多国間でコンセンサスを得られるような文書の採択を目指して議論を重ねるという点においては、議形態を持つという特徴があるものの、最後にコミュニケの採択という形で合意形成を目指すG7/G20といった(財務省関係の読者にとって馴染みがあるであろう)通常の国際会議とそれほど大きくは変わらない。ただし、特に気候変動分野は、伝統的に、いわゆる先進国と途上国との間で意見が対立することが多く、過去た2度だけで、それ以外の年は毎回、会期を延長している。通常の国際会議と大きく異なるのは、交渉であるがゆえに日程が流動的で、先の予定が全く読めないことである。前日夜の時点で翌日のスケジュールが判明していればまだ良い方で、当日の朝になっても、いつどこで会議が行われるのかさえ決まっていないことが大半である。その場合は、とりあえず一旦会場に向かい、日本代表団のロジ室等で事務局からのメールが来るのを待つしかないのだが、特に会期後半1週間は、こういった状況がほぼ毎日続くのである。会場で待機する時間が長いうえ、ようやく担当の会議がセットされたと思えば次から次へとリスケされ、夜22時を過ぎて開会がアナウンスされたかと思えば途上国の代表の大半が会場に現れず(夜遅いため既に宿舎に戻っていたと思われる)そのまま定足割れで会議が流会となるなど、予測不可能なことの連続である。こういったある種のカオスな状況というのは、COP交渉独特のものであると思われるが、各国交渉官との連絡、事務局からのアナウンスのタイムリーな把握、COP公式アプリへのアクセスなど、パソコン・スマートフォン・タブレット・スマートウォッチ等のあらゆるIT機器をフル活用しないと流れに乗れず置いていかれてしまうため、要注意である。交渉のための会議中、議論が紛糾した際などは、議長が議事を中断し、「ハドル(huddle)」への移行を宣言することがある。元々はアメリカンフットボール用語で、「フィールド内で次のプレーを決める作戦会議」を意味するようであるが、下の写真のように、議場の空きスペースに主要関係者が円状になって集まり、マイクを通さない(議事録には残らない)非公式な意見交換が行われることとなる。通常の国際会議においても場外でのやり取りは行われるが、COPではハドルは公式な会議のほぼ延長線上として捉えられていることがその特徴であり、ハドルにおいて関係者間で合意された内容や文書の文言などは、出席者のコンセンサスを得たものと実質的にみなされ、議長がそのまま採用することが多い。ハドルでは、米、英、豪など英語を母国語する国が圧倒的に強く、ハドル自体は自由参加であるため日本も輪に加わることはもちろんできるが、そこでの議論を主導することは、英語を母国語としない日本にとってはなかなか難易度が高い。今後COP交渉に参加する可能性がある方は、このハドルの存在を心に留めておいていただくと良いであろう。今回のCOP29は、これまでは年間1,000億ドルを数値目標としていた先進国から途上国に対して提供する気候資金について、2025年以降の新しい数値目標(NCQG:New Collective Quantified Goal)の決定写真4 COP29で実際に行われたハドル[Photo by IISD/ENB | Mike Muzurakis]ハドルを制する者は交渉を制すCOP29交渉の最大の目玉

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