ファイナンス 2025年2月号 No.711
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□□□□連載PRI Open Campus PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 40単価160のエンジン、マレーシアで生産された単価10のタイヤが、タイで完成車に組み立てられ、単価300で最終消費地である米国に輸出されるケースを考えてみます。この生産システムにおいて、まず日本からタイへの輸出でエンジンの価値160がタイの輸入統計に計上されます。そして、マレーシアからタイへの輸出でタイヤ4個分の価値40が同様に記録されます。そして、タイから米国に完成車が輸出されるときは、その価値300がさらに米国の輸入統計に積み上げられます。ところが、この完成車の単価300は、日本やマレーシアで生産されたエンジンとタイヤの価値をすでに含んでいるので、米国市場に行き着くまでの間にこれら部品の価値が通関統計で二度計上されることになります。そうすると、グローバルな貿易量で見た場合、米国の消費者は〈二つのエンジンを搭載した8つのタイヤを持つ車〉を運転している、という非常に奇妙なイメージになってしまいます。そこで、従来の貿易統計ではタイから米国へ向けた完成車の輸出が部品や原材料の価値を含んだ形で記録されるのに対し、付加価値貿易のアプローチでは、純粋にタイで発生した価値のみを考えます。その結果、米国の輸入相手国は、タイに加え、従来の貿易統計では交易関係のなかった日本とマレーシアもその対象になります。したがって、最終製品の生産者の視点で見ると、付加価値貿易の指標というのは、「自社の製品にどの国のどの産業の付加価値がどれほど含まれているか」ということを数値化しており、いわばサプライチェーンの究極的な依存度、付加価値源泉の地理的集中度を量的な側面から捉えています。次に、サプライチェーンの地理的集中リスクを頻度という軸で考えます。上述の通り、付加価値貿易は「どの国のどの産業で生み出された付加価値がどの国のどの最終製品にどれほど組み込まれているか」という、サプライチェーンの始点と終点の関係性のみを考えます。しかし、製品に体化された付加価値というのは、最終製品に組み込まれるまでの間、様々な国の様々な産業を経由します。地理的リスクを考えるのであれば、サプライチェーンがハイリスクな国を通過する生産経路をいくつも持っているとなると、その脆弱性が高まることになります。そこで、ある製品のサプライチェーンがハイリスク国の産業部門をどのくらいの頻度で経由するのか、という視点で地理的集中リスクを考えます。エンジン:160タイヤ:10 x 4個= 408.頻度ベースの集中リスクファイナンス 2025 Feb. 75図表8□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□①日本→タイ②マレーシア→タイ③タイ→米国④日本→米国⑤マレーシア→米国⑥世界貿易量完成車:300 (付加価値100)従来の貿易統計付加価値貿易統計□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□出典:猪俣哲史『グローバル・バリューチェーン』、2019年日本タイマレーシア

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