ファイナンス 2025年2月号 No.711
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連載PRI Open Campus次にご紹介する実証モデルはサプライチェーンのリスク分析のために開発したものです。国際生産分業の進展に伴い、サプライチェーンの効率的な編成が突き詰められた結果、生産拠点が一部の国や地域へ極度に集中するような状況が生み出されました。東日本大震災やリーマン・ショック、タイの洪水、サイバー攻撃などにおいては、モノの流れ、カネの流れ、情報の流れが集中したネットワークの「急所」に対するショックが大きな被害へとつながった事例がいくつも思い起こされます。そこで、このモデルによるリスク指標は、ハイリスク国(自然災害が多い地域や、地政学的リスクが高い地域)に対するサプライチェーンの地理的集中度を計測します。一般的にリスク評価には二つの軸があります。一つは、対象から受ける影響の「量」という側面、もう一つは、その「頻度」という側面です。例えば、家族がウイルスに感染するリスクについて考えてみますと、家族全員で危険地域へ行けば、当然、感染リスクは高くなりますが、たとえ一人しか行かなかったとしても、その一人が何回もそこへ足を運べば、やはり感染リスクは高くなります。サプライチェーンに話を戻しますと、ある最終製品が特定国を源泉とする付加価値を大量に含んでいる、あるいはその製品のサプライチェーン上に特定国の産業部門が頻繁に登場する、というような場合、サプライチェーンが特定国に大きく依存し、またそのカントリーリスクにさらされていると考えることができます。まずは量ベースの集中リスクについて考えます。これにはGVC研究の中核をなす付加価値貿易の指標を用います。付加価値貿易とは、国際貿易をモノの流れではなく「価値の流れ」として捉える、といったものです。その指標では、国際産業連関表を用いて製品を生産工程ごとに細かく分割し、各工程において付加された価値の国際的な流れを計測します。例えば、図表8に示されたとおり、日本で生産された6. ハイリスク国に対するサプライチェーンの地理的集中度7.量ベースの集中リスク図表5図表6図表7 74 ファイナンス 2025 Feb.

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