連載PRI Open Campus図表2:米国ICT産業の要素所得分配の推移図表3:総労働時間のシェアの推移アリングが進んだことによる国際生産分業の深化を示しています。先進国は低付加価値業務を次々と途上国へオフショアリングするため、当然、国全体としての平均賃金は高くなっていきます。一方、オフショアリングされた業務は、発展途上国で中技術・低技術の雇用を大量に生み出しました。例えば、賃金では最も低い位置にある中国において、付加価値の総額を示すバブルはこの期間で約十倍に膨れ上がっています。同国において、スケールメリットを生かした薄利多売型の大量生産システムが確立されたことを確認できます。このようにGVCの発展というのは、途上国に対して大量の付加価値、あるいは雇用機会を生み出しました。その一方で、先進国においては産業の空洞化、あるいは国内所得格差拡大の原因となった可能性があります。図表2は1995年から2009年までの米国ICT産業における要素所得の推移を示しています。技術革新の効果で労働生産性が飛躍的に伸びたことに加え、資本労働比率でも労働要素のシェアが増え続けたことが分かります。しかし、図表3でその内訳を見てみると、シェアを伸ばしているのは高技術労働のみで、中技術・低技術労働への需要は年々縮小しています。まさに、一つの産業のなかでも、異なった技術レベルを持った労働者の間で格差が拡大していることがわかります。むろん、この議論は経済のグローバル化が国内雇用に及ぼす負の影響しか捉えておりません。理論的には生産性の向上によるプラスの効果もあるはずで、本来はこの二つを天秤にかけて考えていく必要があります。ただ、少なくとも米国国内においては、貧困化する一部の低所得者、肥大化を続ける対中貿易赤字、そして日常生活に氾濫する「メイド・イン・チャイナ」といったイメージの数々が重なり合い、今日におけるような中国に対する強硬な論調を生み出すに至ったのではないでしょうか。しかし現在、米中対立の焦点はすでに非熟練労働の奪い合いから、先端テクノロジーをめぐる安全保障の問題へと大きく転換しました。非熟練労働の国際分配3. 異なったスキル・レベルを持つ労働者間の格差 72 ファイナンス 2025 Feb.出典:グローバル・バリューチェーン・レポート 2017をもとに筆者作成
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