ファイナンス 2025年2月号 No.711
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財務総合政策研究所 総務研究部研究員 伊佐 義隆総務研究部主任研究官 森 友理 ような対立のメカニズムがあったのか、グローバル・バリューチェーン(GVC)の理論から分析します。次に、視点を米中貿易不均衡から経済安全保障の問題に移します。ネットワーク中心性という概念が、国家間のパワーバランスにどのような影響を及ぼすのかということについてお話しします。米国の大統領選挙において、2016年の選挙ほど国際貿易が争点となったことは珍しいと言われています。MITのエコノミスト、デビッド・オーターらの研究チームは、米国の対外貿易、特に中国との貿易不均衡問題が大統領選挙に大きな影響を及ぼしたという研究成果を示しています。まず彼らは、米国国内の雇用市場の局所的な地域単位と見なすことができる「最小雇用圏区分」に着目しました。そして、その各地域区分の産業構成と、国全体の貿易収支の中での中国からの主要な輸入品目とを突き合わせることにより、各地域区分の「中国との競争に対する露出度」を計測しました。さらに彼らは、それに続く研究のなかで、この各地域区分を米国の選挙区とリンクさせ、各地域における中国との競争が有権者の投票行動にどのような影響を及ぼしたかについて分析しました。人種や性別、政治的信条など様々な角度から分析した結果、中国との競争に晒されている地域の有権者ほど、共和党に投票する傾向が強いということが明らかになりました。歴史を振り返るまでもなく、保護主義的な政策というのは様々な国で幾度となく繰り返されてきました。PRI Open Campusでは、2024年10月8日(火)に財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月の日本貿易振興機構アジア経済研究所の猪俣哲史上席主任調査研究員にご講演いただいた内容を、「ファイナンス」の読者の方々にご紹介します。現在、米国大統領選挙の動向が気になるなか、その重要なアジェンダの一つである米中経済対立に焦点を当ててお話しします。国際産業連関表というデータを用い、マクロ経済統計だけではなかなか見ることができない世界経済の深層構造に光を当ててみたいと思います。まず、今日の米中経済対立の源泉と言える貿易不均衡問題について考えます。もっぱらトランプ政権時代を振り返りますが、米中貿易摩擦の根底には一体どの*1) 本講演は日本経済新聞出版刊行の「グローバル・バリューチェーンの地政学」及び「グローバル・バリューチェーン 新・南北問題へのまなざし」の内容を元に講演いただいたものです査研究員2014年一橋大学博士課程(経済学)修了。1991年アジア経済研究所に入所。ロンドン大学客員研究員、OECD客員研究員等を経て、2023年10月より現職。著書「グローバル・バリューチェーンの地政学(日経BP日本経済新聞出版)」にて第18回樫山純三賞(一般書賞)、著書「グローバル・バリューチェーン 新・南北問題へのまなざし(日本経済新聞出版社)」にて第31回「アジア・太平洋賞 特別賞」、第36回「大平正芳記念賞」を受賞。1.米中貿易不均衡問題 70 ファイナンス 2025 Feb.「グローバル・バリューチェーンの地政学−国際産業連関表を用いた分析−」*1 猪俣哲史 日本貿易振興機構アジア経済研究所上席主任調-国際産業連関表を用いた分析-グローバル・バリューチェーンの地政学40PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~連載PRI Open Campus

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