ファイナンス 2025年2月号 No.711
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連載セミナー声に出して言わないけれど、本当は人間関係が悪いと思っている人が結構いるのです。働くうえで、人と人との関わりはとても大切です。日本では長期雇用が根付いていて、異動でお互いが離れるという場合はあるにしても、「嫌だったら辞める」ことがなかなかしにくいので余計にそうです。会社にせっかくいるのならば、いてくれるのだったら、良好な人間関係を作りたいものです。皆さんは部下とのやり取りのとき、何を大事にしていますか。どんな対話をされていますか。ここからは、部下との関係性やコミュニケーションにはいろいろなパターンがある、ということを紹介していきます。部下が会社で思ったようなキャリアが描けないとか、仕事にやりがいを感じられない、評価に納得できないといった不満の背後には、上司とのコミュニケーションの問題が潜んでいることが結構あります。以前、人と人の関わりについて研究して分かったのは、望ましい人間関係というのは「共通の目的がある」と「ありのままの自分でいられる」の両方揃うのが最強だということです。どちらもない人間関係では「安心」や「喜び」、「成長」、将来の「展望」が感じられないのに対して、どちらもある人間関係からは「安心」会社のマネジメントでは組織の目的が先にあるわけで、その目的のもとにみんなが集結し、みんなで目的を追求できるか、が重要です。その目的追求のプロセスの中で、「その人らしさ」が発揮できるかどうかで、メンバーの満足度やコミットメントには雲泥の差が生まれます。今、「その人らしさ」と言いました。皆さん、「その人らしさ」を尊重するために大切なことは何でしょう。それは「心理的安全性」と言われるものです。心理的安全性とは、その人が組織の中で拒絶されたり、非難されたりせず、その人のスキルや才能が尊重され、活かされていると思える状態です。一方的にダメ出しばかりするような組織では心理的安全性は低いし、本来自分が強みとしているものとは違うことばかりが期待されるのでは、心理的安全性はなかなか保ちにくいのです。組織の中でのマネジメント項目、例えば「職務の多様性がある」「職務に自律性が求められる」「役割が明確である」「個人の業績が評価される」「仕事の相互依存性が高い」「心理的安全性が高い」という項目が、「仕事への充実感」「仕事への満足感」「自分の成果」「自律的なマネジメント」「学びに対する意欲」「他者への信頼」「他者からの信頼」にどの程度影響を及ぼすかについて分析したところ、「心理的安全性」が最も影響を及ぼしていることがわかりました。仕事への不満には人間関係の問題が潜んでいることが多いです。しかし、心理的安全性を高めるマネジメントができれば、自ずとそのメンバーは充実感を感じ、自走し、新しいことを学んだりするようになり、チームの中でお互いに信頼し、信頼されるようになります。心理的安全性を追求することはとても大事なのです。続いて、心理的安全性を追求し、個人を尊重していくために、メンバーが何を働きがいの源泉にしているのかについて説明します。最近、「キャリア自律」という考え方に注目が集まっています。マーサー社の分析によれば、「キャリアの構築責任が高いか、低いか」「キャリアの自己選択をしたいと思っているか、思ってないか」という2×2の4象限に分けると、両方が高い「キャリア自律度が高い人」は全体の11%しかいなくて、むしろ、両方とも低い人が78%と大半を占めます。加えて、「キャリア自律度」が高い人たちと低い人たちでは、求めているものも違います。キャリア自律度が高い人たち(11%)は、「達成感のある仕事」「理念・パーパスへの共感」「成長機会」というやりがいを求めています。一方で、キャリア自律が低い人たち「喜び」「成長」「展望」を最も感じることができます。部下とのコミュニケーション働きがいの源泉 66 ファイナンス 2025 Feb.1.多様なキャリア観1.理想の人間関係2.「心理的安全性」のインパクト

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