ファイナンス 2025年2月号 No.711
69/92

連載セミナー 令和6年度上級管理セミナーバーは上司に恩義を感じて、仕事をもっと頑張ろうと思いますよね。こうした、上司ができる範囲で配慮することも「i-deals」と言います。海外企業に比べて日本企業は人事制度は充実していることが多いですが、人事制度の内容以上に、実際に職場で気持ちよく、望ましい働き方ができるという運用面こそが大事な場面が多々あります。そういう時に「i-deals」をどこまでするのか、できるのか、が問われます。では、日本はどうなっているのかというと、他国と比べて全く「発言」がないのです。日本で「i-deals」がどこまで使われているかの例として、転職時の条件交渉として個別に転職先の企業に本人が確認してすり合わせているものは何か、をまとめました。日本、アメリカ、フランス、デンマーク、中国の5か国で働く人々に、転職時の条件交渉として転職先と何をすりあわせたか、について尋ねました。すると、日本以外の国の1位は「賃金」で、「賃金」が7割以上でした。しかし、日本だけは1位が「特にない」で、「賃金」は2位で3割でした。さらに言うと、日本では、たった3つ、「賃金」「仕事内容」「勤務時間」だけしか、転職時にすり合わせが行われていませんでした。私は連合総研に転職する前はリクルートに勤めていて、就職や転職サービスの企画の仕事をしていました。そして、多様な働き方、個人の多様な選択を応援する仕事をしているつもりでした。ところが国際比較調査を行ったら、日本で働く人々が仕事選びの際に、会社とすり合わせている内容は、「賃金」と「仕事内容」と「勤務時間」だけでしかない。この結果を見て、正直ショックを受けました。「賃金」「仕事内容」「勤務時間」という基本的な労働条件を除いて、個人レベルでの「i-deals」が日本には全くなかったからです。今、個人と組織は「Lose-Loseな関係」にあります。そもそも良い状態ではない上、さらに不満を解消するための「発言」もない。このような状態で、組織は自浄作用により良い組織や、より良いマネジメントに変わっていけるでしょうか。日本で「i-deals」が少ない背景には何があるのでしょうか。プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が以前行った調査で、会社員の人とフリーランスの人に「働き方を続けたり、成功させる上で重要なものは何ですか」と聞いた設問の結果がヒントになります。この設問の回答選択肢は、「やり遂げる力」「成果に結びつく専門性・能力・経験」「顧客/市場ニーズの把握力」「人脈」など10数項目あり、複数選択ができます。その結果、ほとんどすべての項目で、会社員よりもフリーランスの方が、選択率が高かったのです。各項目について重要と答えた割合は、フリーランスは6割台、会社員は2~4割台と顕著な差があります。会社員の方がフリーランスより高い項目は1つしかありませんでした。しかもそれは、なんと「忍耐力」だったんです。皆さんは、働くうえで忍耐力が大事だ、と言われて嬉しいでしょうか。モチベーションがあがりますか。同じ働くなら、もっと別のスキルや力を身につけたいと思いませんか。このように、忍耐を要し、我慢を求められるのが日本の職場です。そのため、社員は会社を辞めていく時も、本音を言いません。エン・ジャパン社の調査によると、退職経験がある人の4割は「本当の退職理由を会社に伝えていない」と答えています。最近は、組織やマネジメントを改善するために、退職者インタビューを行う会社が増えていますが、どこまで本音が聞き出せているかについては、冷静に判断する必要があります。この調査で、会社に伝えている理由と会社に伝えなかった理由を比較してみましょう。例えば、「新しい職種にチャレンジしたい」「別の業界にチャレンジしたい」「自身の病気・怪我」「家庭の事情」というようなことは、離職者は会社に伝えています。一方、会社には言っていないけれど、本当は心の中で思っていた中で一番多いのは「職場の人間関係が悪い」で、「給料が低い」「将来性に不安」「風土が合わない」「人事制度に不満」「仕事内容が合わない」と続きます。ファイナンス 2025 Feb. 652.日本では声をあげない、あげられない3.「忍耐」の拡大再生産4.本音を隠したまま離脱

元のページ  ../index.html#69

このブックを見る