ファイナンス 2025年2月号 No.711
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連載セミナー2040」を発表して、現在の経済トレンドのまま進む昨年、リクルートワークス研究所が「未来予測と、労働力の需要と供給がどう変わるのか、に関する推計結果を出しました。それによると、労働力の需要は今後も緩やかに伸びていく一方で、労働力の供給は右肩下がりでぐんぐん下がり、需要と供給のギャップが拡大します。職種別にみても、ほぼ全ての職種で労働力の需要と供給のギャップが、2030年、2040年と先に行くにしたがって広がります。ただ、皆さんのような「事務、技術者、専門職」だけは少し違っていて、2030年までは、供給が需要を上回っているので、多少、時間的な猶予があります。しかし、若年層に関しては絶対数が50年間で半減しているので、今までと同じぐらい優秀な人を採用したいなら、今までの2倍努力しないといけない状況になっています。したがって、人材獲得のパラダイムは「外部から新規採用」から「内部人材の定着&活躍」にシフトしつつあります。これから会社が人材マネジメントで最も力を入れるべきは、新規の採用以上に、「一度採用した方々に長く、意欲的に活躍してもらう」ことです。管理職の手腕が今まで以上に問われる時代になっているのです。ここからは、どうしたらより良い職場になるのか、若い人たちの気持ちが組織や仕事に向くようになるのか、についてお話しします。最初に「発言」と「離脱」という概念に関する研究理論を紹介します。自分の意思を声にして他人に伝えることが「発言」です。ユダヤ人の政治経済学者アルバート・ハーシュマンは「Voice and Exit」理論を提唱し、人が不満を感じた時に、その不満からの回復メカニズムは、そこから離れて新しいところに移ったり、新しい商品に乗り換えたりするという「離脱オプション(Exit)」と、本当はこうしたら良いのだ、と意見を表明して、内側から変えていくという「発言オプション(Voice)」の2つがある、と説明しました。この理論を労働に適用すると、不満からの回復のために声を上げて(Voice)、改善のためにいろいろなことをやっていく、そうでなければ、外に飛び出して転職する(Exit)、ということになります。「Voice」の仕方は、労働組合経由という集団的発言だけでなく、職場の上司や人事に直接言う、という個人での発言もあります。集団的発言だけですべてが解決するわけではないので、個人的発言も大切です。個人的発言に関しては、デニス・ルソーというカーネギー・メロン大学教授が提唱した「i-deals」という考え方があります。「i-deals」とは、「労働者による個人的な交渉で、他の従業員とは雇用条件が異なるが、労働者と使用者双方にとってメリットがあるもの」を意味します。もし、職員が管理職に対して、不満を伝えてきたり、問題を提起したりしてきたときに、管理職に求められるのは、職員と会社の双方にとって建設的な着地点を見つけることです。「i-deals」は、個人と組織のいろいろなレベルの関係で、それが行われ得ることを示した概念です。例えば、グローバル企業では外国から経営幹部を招聘することがあります。すると、日本人の社長よりも、招聘した外国人役員の報酬の方が高いとか、来日に当たり住宅や子供の教育などに特別な対応をするみたいなことが起きますよね。これは、一つの「i-deals」です。経営上、その人の能力や経験が必要なので、その人ならではのディール(契約)を結んだのです。こういう経営につながるレベルの「i-deals」もあれば、もっとささやかな職場での「i-deals」もあります。例えば、いつもとても頑張っているメンバーがいて、職場の勤務時間は9時~17時と労働時間も厳密に決まっているとします。ある日、娘さんが発熱してしまい、そのメンバーが早く帰りたがっているときに、「今日はこっそり帰っていいよ、やっておくから」と上司が言ってあげるとします。すると、そのメン「発言」と「離脱」 64 ファイナンス 2025 Feb.5.職種別の労働力需給見通し6.人材獲得のパラダイム1.「発言」と「離脱」の理論

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