主幹研究員)主幹研究員)1.「Lose-Loseな関係」での消極的帰属講師演題空前の人材不足て今より良い仕事に就くことが難しいからです。少なくとも、そう思いにくいからです。いろいろなことに不満でも、個人はその会社に居続けなければならない、ぶら下がらざるをえない、その状態を組織側も許容しないといけない、というのは組織にとっても個人にとっても不健全です。ですが、この「lose-loseな関係」が今の日本の状態です。個人の組織への帰属が希薄になっていて、さらに、人口減少が進み、若い人が減っています。そして、人手不足も極まってきています。ハローワークの求人充足率を見ると、過去60年間で最低ラインまで下がっていて、もはや人を採ることがとても難しくなっています。一方で、コロナ禍以降、転職希望者の増加は顕著です。ただし、転職者数そのものはまだ長期的にみると微増です。なかでも、若年の離職意向が明らかに増加しています。会社側からすると、若い人たちに今の会社で長く働きたい、他の仲間と一緒に頑張りたいと、どのようにして思ってもらうのか、が大きなポイントになっています。先ほど過去60年の中で人材獲得が最も難しくなっていると言いましたが、今後、人材獲得はさらに難しくなっていくと予想されます。今日は「働く人を大切にするということ-発言・沈黙・離脱-」というテーマでお話させていただきます。日本では、働く人たちの組織への帰属が、危機的な状況にあります。個人と組織は「Win-Winな関係」が理想と言われますが、私たちが行った国際調査によれば、「Win-Winな関係」というよりも「Lose-Loseな関係」と言った方が正しいのではないかと思っています。調査は、日本、アメリカ、フランス、デンマーク、中国の5か国を対象に行いました。日本は長期雇用が根付きメンバーシップ型なのに対し、アメリカは労働市場の流動性が高く、フランスはジョブ型雇用ですが労働者保護が強く、デンマークは企業が解雇がしやすいにもかかわらず国民の幸福度が高く、中国は日本への影響も大きいアジアの国です。その結果、日本は他の国に比べて、「仕事にのめり込んでいる」「スキルと才能が尊重され活かされている」といったワーク・エンゲージメントに繋がる項目のスコアが低いことに加え、「給与に満足している」「仕事の人間関係に満足している」「会社の経営理念に共感する」といったいずれの項目もスコアが低かったのです。ところが、にも関わらず、「今の会社を辞めたい」というスコアだけは他の国と同じでした。通常、これだけ他の項目のスコアが低ければ、「今の会社を辞めたい」というスコアは飛び抜けて高くなるはずですが、日本はそうではありませんでした。なぜこのような結果になるかというと、今の会社を辞めファイナンス 2025 Feb. 632.未曽有の人材獲得難3.若年離職のリスクの高まり4.激化する人材不足令和6年10月4日(金)開催令和6年度 上級管理セミナー財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute連載セミナー 中村 天江 氏 氏中村 天江( 公益財団法人 連合総合生活開発研究所 ( 公益財団法人 連合総合生活開発研究所 働く人を大切にするということ働く人を大切にするということ−発言・沈黙・離脱−−発言・沈黙・離脱−
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