ファイナンス 2025年2月号 No.711
64/92

□□□コラム連載海外経済の 潮流(億元)□□□□□□□□□□□□□□□▲□□□(万人)□□□□総利益□□□雇用者数(右軸)□□□□□□□□□□□□□□□純輸出□□□成長率【図表1】紡織業の総利益と雇用者数の推移【図表2】実質GDP成長率グローバル化の進展に伴い、世界的な経済の結びつきが深まるなか、一国の経済活動が世界に与える影響が大きくなっている。2024年4月、米国財務長官が中国の過剰生産能力について懸念を表明した。また、5月のG7での共同声明や、EUによる中国製EVへの追加関税賦課など、世界各国において中国の過剰生産能力に対する懸念が広がっている。この世界各国の懸念に対し、中国政府は過剰生産について否定する姿勢をとっており、両者の立場に食い違いが生じている。こうした状況を踏まえ、本稿では、過去の過剰生産問題や中国政府が実施した対策について振り返る。また、現在の中国における過剰生産問題を概観しつつ、過去との比較等を行いたい。中国は過去に2度、生産能力過剰の問題に直面した。1978年、鄧小平の元で改革開放政策が打ち出された。改革開放では市場経済への移行、先富論*1が軸となり、経済特区の設立や先進国資本の導入が行われた。市場メカニズムの導入により中国は高度成長の時代となり、様々な産業が大きく発展した。特に紡織産業は過当競争状態となった。その結果、外貨獲得や雇用創出など、中国経済の成長に対して大きな役割を果たした国有紡績企業の赤字が継続し、業界全体が赤字へと転落した。中国政府はこうした状況を打開すべく紡績業界の改革を実施した。具体的に、97年からの3年間で全国の紡織機1000万錘を強制的に廃棄する、といった方針を打ち出し生産能力の削減を命じた。加えて、同削減政策に対する余剰人員の再配置や補助金の支給、減税など多面的な対策が実施された。2008年、サブプライムローンをきっかけに発生した世界金融危機の影響で2009年第一四半期の中国のGDP成長率は減速した。中国政府は4兆元(当時の名目GDP比約13%)の経済対策を行い、総資本形成を大幅に積みますことで、成長率の減速を抑えた*2。1.はじめに2.過去の過剰生産問題大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 太田 千晴*1) 豊かになれるものから先に豊かになる*2) 経済産業省 通商白書2016 60 ファイナンス 2025 Feb.最終消費支出総資本形成(1)1990年代後半頃(2)2010年代後半頃(出所)国家統計局(前年比、%)□□□□□□▲□(出所)国家統計局海外経済の潮流 154中国の生産能力について

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る