□□□SPOT アメリカにみる社会科学の実践(第五回)支持するようになる。ポルボーンらは、実際の政党支持の動向もモデルの予測を裏付けていると指摘する。図3.13(b)によると、1988年から2000年の有権者の投票行動の変化をみると、イデオロギー的に左の高所得者の民主党支持が顕著に強まり、イデオロギー的に右の低所得者の共和党支持も相当程度増加している。政党間の境界の傾斜が増すと、たとえ有権者の選好の分布が変化しなくても、有権者はイデオロギーによって分類されるようになる。国民の間にあるイデオロギー的分断が浮かび上がってくる。このような変化は政党の側で政策の変更も呼び込む。例えば、共和党では貧しい白人を念頭に保護主義が強まる。ヤン・チェン(Yan Chen、ミシガン大学)らは、実験を用い、個人の資質と情報環境の相互作用から分断を考察する(Bauer et al.,2023)。チェンらの焦点は、集団アイデンティティが信念形成に与える影響である。彼らは、アメリカの代表的な個人サンプルを対象に、2020年の大統領選挙の設定でオンライン実験を実施した。具体的には、1)大統領選挙直前の2020年11月に、1)個々人の集団アイデンティティなどを計測し、2)トランプ/バイデンが大統領になった場合の就任1年後の失業率/医療制度の世界ランキングの予測を被験者にしてもらい、3)メディア情報の取捨選択、情報咀嚼の影響を計測した。メディア情報の取捨選択の際には、左寄りメディア(ワシントンポスト等)、右寄りメディア(ウォールストリートジャーナル等)、中立メディアから各々二つの記事のメディア名と見出しを提示した。資金を拠出すれば、読みたい方の記事が読める蓋然性を高めることができる設定を作り、読みたい記事を読む支払い意思(WTI, willingness to pay)を調べた。また、記事の咀嚼の影響をみるために、2)で調べた失業率/保険制度のランキングの予測が、記事を読むことでどう変化するかを計測した。さらに、政治的な集団志向についての実験と並行し、各人の最小集団志向(minimal groupness)についてのテストを実施した。すなわち、○のグループ又は△のグループに被験者を割り当て、6ドルを自分のグループに配分するか、他所のグループに配分するかを問い、政治的集団志向との対照に用いた。結果的にみると、被験者の37%が最小集団志向を持ち、59%が政治的集団志向を持っていた。○か△かというのは意味のないグループであるが、それでも集団志向を発揮する者が相当数おり、そして、そのような人たちは政治的にも集団志向的であった。このことは政治的集団志向に心理的基盤が存在することを示唆する。政治的集団志向を持つ者は、失業率や医療の予測でも、自分の集団に有利な予測するバイアスがあった。読みたい記事へのWTIをみると、政治的志向性を持つ者は、集団外の情報を排除する傾向があった。政治的集団志向を持つ者は、情報を集団バイアスを強化する方向で咀嚼した。政策的な含意としは、チェンらは、(「ワシントンポス図3.13:二元的競争軸(縦軸:所得、横軸:文化的イデオロギー)□□□二元的競争軸とその変容□(a)二元的競争軸とその変容(b)有権者の投票行動の変化(1988年→2000年)ある。□図図□□□□□□□□□□□□二二元元的的競競争争軸軸□□(注)縦軸が所得、横軸が文化的イデオロギー。原点に近い方が民主党。近年、政党の境界線の傾斜がきつくなる傾向が(出典)□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□に基づき、筆者作成□ファイナンス 2025 Feb. 41(注) 縦軸が所得、横軸が文化的イデオロギー。原点に近い方が民主党。近年、政党の境界線の傾斜がきつくなる傾向がある。(出典)Krasa and Polborn(2014)に基づき、筆者作成(出典)Enke et al.(2020)
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