ファイナンス 2025年2月号 No.711
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□(c)支持政党の推移(割合%)(ギャラップ)□□□支持政党の推移(割合□□)(ギャラップ)□□□□□(d)民主党、共和党支持者のイデオロギーのインテグリティの変化□□□SPOT(affective polarization)の存在を示唆している(Druckman and Levy, 2019)。同じ党の支持者に対する感情と異なる党の支持者への感情をサーベイし、両者の差分を感情的分断の程度と定義している。右上がりの線が感情的分断を示し、次第に支持政党の異なる者への感情が悪化していることが読み取れる。これまでの観察を総括すると、政治家の間で考えの隔たりが拡大している。両党とも中央値から離れつつあり、特に共和党が保守化している。アメリカ国民一般の間の分断については論者によって力点が異なる。両党から独立の有権者が増えており、その意味では全面的な国民の分断の状況にあるわけではない。ただし、各党を支持する者の間では、イデオロギーのインテグリティが強まり、相互に対する感情も悪化している。共和党の政治家の保守化は、実は共和党の見通しを暗いものにしてきた要因であった。ギャラップ社によるサーベイによると、アメリカ人の間で相対的にリベラル化がすすんでいる(Gallup, 2022)。保守と答えた者の割合は1992年の36%から2021の36%と変化はないものの、リベラルと答えた者の割合は、(水準では保守を下回るものの)同時期で17%から25%と次第に増加していた。共和党は相対的に支持基盤を縮小させてきている。他方、趨勢的なリベラル化にも関わらず、図3.9(c)でみた通り、民主党の支持率は低迷しており、このことは民主党がリベラル層のニーズに応えられていないことを示唆する。先述した2024年の大統領選挙では、ハリスよりもトランプの方が中位投票者に近かったという指摘をした。共和党の政治家全体の保守化にも関わらず、大統領候補者が民主党候補者よりも中位投票者に近いことは起こりうる。2024年の勝利が共和党の性格に与える影響については未知数である。共和党のトランプ党化は、共和党全体が中位投票者に近付く契機になるかもしれないし、依然として保守化という従前からの軌道が持続するのかもしれない。分断はどうして生じたのか。ジェニファー・ヴィクター(Jennifer Victor、ジョージメイソン大学)は、分断の背景に、1)貧富の格差の拡大、2)党派の違いとイデオロギーの違いが綺麗に整理されるに至ったこと、3)キャンペーン・ファイナンス(政治資金)の活発化の三つを挙げる(Victor, 2020)。第一に、貧富の格差が開くと、民主党のなかでも左の社会的公正を求める力が強まり、穏健派が力を失い、他方、右の共和党では反動で保守化の力が働く。アメリカでは福祉は有色人種が受給するものだとの固定観念があり、再分配の強化は保守派□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□民主党、共和党支持者のイデオロギーのインテグリティの変化□共共和和党党独独立立民民主主党党図3.9:アメリカの分断状況(a)上下院の分断の推移(縦軸:分断の指標)(b)上下院議員の各党の平均的議員のイデオロギーの推移 38 ファイナンス 2025 Feb.(注)左に寄るほど一貫性の高いリベラル、右に寄るほど一貫性の高い保守を意味する。

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