SPOT 図3.8:ニューオーリンズ市の奴隷市場の状況ハーバード大学のモスは、南部の人々は、補償なしの奴隷解放どころか、戦争に負けることさえ予想していなかったと指摘する。モスは、南部の連邦離脱を民主制の崩壊として描いている(Grodzins and Moss, 2024)。モスが問題視するのは、南部での言論の自由と多党制の壊滅である。当時の南部では奴隷制の批判は禁止されていた。南部は北部に比べて経済的に劣っていると指摘する著作が発禁処分になるという事件が起こっていた。共和党は禁止されており、大統領選での南部9州でのリンカーンの票数はゼロであった。自由な言論が失われ、南部の人々は真実を知ることができず、自らの誤った主張で自らを説得していった。テキサス州では、連邦離脱を決める際、当時の州知事が抵抗したが、知事を罷免して離脱に突き進んだ。北部は南部がないと長く戦争を続けられないという説は根拠がなかった。イギリスが南部につくという説も希望的観測に過ぎなかった。当時の南部には、勝てる、負けないという傲岸さがあった。民主主義国同士では戦争は起きないというテーゼがある。モスは、民主主義国では、弱い方が自国の弱さを自覚するチャンスがあるから、戦争をしないとする。そして、この時の南部は民主主義国ではなくなっていたとする。アメリカにみる社会科学の実践(第五回)れていく傾向があるが、特に共和党の保守化の傾向が著しいことを読み取ることができる。それでは、国民の間にも分断はあるのか。図3.9(c)は、ギャラップ社によるサーベイで支持政党を尋ねたものである。1988年には独立だという者が33%であったのが、2023年には43%にまで趨勢的にむしろ上昇している。国民は必ずしも分断している訳ではない。しかしながら、ピュー・リサーチ・センターの調査(Pew Research Center, 2014)では、両党の支持者のうちでの主張の一貫性を測ったところ、図3.9(d)の示す通り、両党の支持者とも、より一貫してリベラルないし保守的な見解を持つように変化してきたことがわかる。図3.9(e)は、ジェームズ・ダックマン(Jamese Duckman、ノースウエスタン大学)らによるもので、感情的分断奴隷の年齢別の価格(リンカーン当選前後)ファイナンス 2025 Feb. 374.分断(1)観察政治的分断、二極化(polarization)とは、政治勢力が激しい対立関係にあり、合意や妥協に達することが難しくなっている事態を指す。一義的には、民主党、共和党という二大政党の間の政治的対立の激化を指すものであるが、その背景にある国民の間の分断を指すこともある。はじめに政治家の間の分断をみる。図3.9(a)は、連邦議会の上院と下院における分断の程度を議員の投票行動から指数化したものの推移である。議員間の分断は、戦後上昇傾向にあったが、1980年代以降顕著に上昇に転じている。図3.9(b)では、より最近までの動きをみることができる。両党とも次第に中心から離(出典)Calomiris and Pritchett(2016)(注) 実線はリンカーン当選前、点線がリンカーン当選後の奴隷価格。横軸は奴隷の年齢。子どもの奴隷の価格は、成人男性の奴隷の価格と並行的に下がっているに過ぎない。
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