ファイナンス 2025年2月号 No.711
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SPOTル大学)、エリザベス・アンダーソン(Elizabeth ベラルの論者を輩出しており、彼の考えもルソーと一脈通ずるものを持つ。ロールズは、無知のベールの向こうで、人々が正義の二原理(1.基本的自由への平等な権利、2.公正な機会の均等、格差原理)に同意すると主張したが、その原理に同意しうるのはwell-い多元性のもとにあることを認めたが、それでも、理に適った(reasonable)人々の間にある重なり合うコンセンサスを正義の成立の条件として据えたのである人々がコミュニケーションすることの先に公共性を構築することをみた。ハーバーマスの門下生、クリスティーナ・ラフォン(Cristina Lafont、ノースウェスタン大学)は、ランダムに選ばれた市民による会議のような近道を排し、真に人々が対話をすることを求めている(Lafont, 2020)。その意味では、ラフォンは筋金入りの熟議民主主義者として位置づけることもできる。もう一方のアプローチを代表するマディソンは、一般意思のような唯一の正しい解を想定しない(歴史上のマディソンについては、コラム3.2を参照)。マディソンは「野望には野望をもって対抗せしめなければならない」(Madison, 1788)と述べ、様々な利害と見解を持つ者の間で抑制均衡が働く仕組みを作り上げることに腐心した。自由の最大の脅威は特定の勢力が権力をほしいままにすることであり、この脅威を防ぐため、三権が抑制しあい、連邦と州が競合する連邦制を構想した。マディソンの憲法の構想にはなかったものであるが、政党間の競合も権力の集中を抑制するのに貢献した。政権との対峙を辞さないプレスと、それを支える表現の自由を定める合衆国憲法修正第1条の存在も重要である。恣意的権力を作り出さない究極の目的は、自由を保護することであり、活力のある自律的な民間の存在こそは、抑制均衡の制度を動かす原動力である。マディソンに課せられたのは、都市国家の域を超えた大規模な民主国家の創出という、前例のない課題であっAnderson、ミシガン大学)ら、アメリカで有力なリordered societyに属する者たちに限定した(Rawls, 1971)。後期のロールズは、社会が容易には相容れな(Rawls, 1993)。ドイツのユルゲン・ハーバーマス(Jürgen Habermas)も、理想的発話状況を前提に、(2)マディソンた。マディソンは国が大規模であることを逆手に取り、大きな連邦のなかで派閥が競いあい、競争が持続する制度を設計した。このような競争に基づく民主主義を考えている社会科学者として、ヨーゼフ・シュンペーター(Joseph Schumpeter)を挙げることができる。シュンペーターにとって、民主主義とは政治的な決定権を得るために政治家が票を競いあう制度的装置であった(Schumpeter, 1942)。シュンペーターの民主主義論、同じく競争主義的なロバート・ダール(Robert Dahl)の政治学を現代に継承しているのが、イアン・シャピロ(Ian Shapiro、イエール大学)である。シャピロは熟議民主主義に懐疑的である(Shapiro, 2006, 2017)。熟議のアジェンダや代替策として何を出すかなど枠組みを誰が決めるのか明らかではない。例えば、「あなたは減税を好むか」と訊けば、多くの人がイエスと答える。他方、「減税とともに、処方薬へのベネフィットを廃止することを好むか」と訊けば、多くの人がノーと言うだろうという。熟議に代えてシャピロが強調するのが政党の役割である。政党がまとまりのある政策プラットフォームを提示し、より多くの票を求めて競い合うことがシャピロの戦略である。ただ、彼は二大政党制の現状には批判的である。連邦議会の議席の大部分は実質的に予備選で決まっており、その予備選は極端な主張をする活動家の跋扈する場となっている。シャピロは連邦議会議員のリーダーシップが党をけん引するように改めることを提言し、そのリーダーシップの良し悪しを選挙で決めればよいとするムフの「闘技的民主主義」も、左右の勢力が闘技をするように競うことを推奨しており、競争主義的民主主義の系譜に位置付けることができる。連邦と州の間の抑制均衡に着目するのが、ジェナ・ベドナー(Jenna Bednar、ミシガン大学)である(Bednar, 2009, 2016, 2021)。ベドナーは、アメリカにおける州の多様性が、アメリカを「強靭な連邦」(robust federation)たらしめていると論ずる。ベドナーによると、各州が政策の実験場となることで、環境の変化に適応する政策を発見するチャンスを高めることができる。アメリカで現在主流化している制度の多くの淵源が州にあった。2010年医療制度改革がマサチューセッツ州に由来することはよく知られている。 32 ファイナンス 2025 Feb.

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