図3.5:ポピュリストの特定とその経済パフォーマンス(a)ポピュリストの特定(濃:右派、薄:左派)SPOT アメリカにみる社会科学の実践(第五回)政策的に保守勢力に近付いたことが声を聞き届けられなくなった人々を生み、彼らを右派のポピュリズムへと追いやったと指摘する(Mouffe, 2000)。彼女は「闘技的(agonistic)民主主義」を提唱し、民主主義が生き残るには、左右の両派が闘技をするように競わなければならないとし、イギリスの労働党ブレア政権の「第三の道」、アメリカのクリントン政権などの中道左派政権を批判した。冒頭に引用したアセモグルは依然中道左派に期待をかけているが、「自分たちの土地に住むよそ者」をトランプに明け渡した、民主党に厳しいことでは通底するものがある。フランスやドイツなど多くの欧州諸国では、中道左派と中道右派が協力して、ポピュリストの封じ込めに尽力してきた。トランプが共和党の候補になる2016年の過程でも、トランプの隔離が試みられ(Levitsky & Ziblatt, 2018)、バイデン政権発足後は、議会襲撃事件への関与に関する追訴などを通じ、トランプを封じ込める努力が行われた。しかしながら、これらの取り組みは、ポピュリズムの勢力を削ぐことに成功していない(コラム3.1では、ポピュリズムと民主主義の頑健性を検証している)。*3(b)ベースラインとポピュリスト政権のGDPの差ポピュリズムは頑健で持続可能なものなのか。もしポピュリストの経済パフォーマンスが劣悪なものであれば、早晩、ポピュリスト政権は後退するのではないか。マヌエル・フンケ(Manuel Funke、キール世界経済研究所)らは、1900年から2020年までの60か国で51人のポピュリストの大統領と首相を特定し(図3.5(a))*3、ポピュリストは経済パフォーマンスは悪いものの、政治的パフォーマンスは良好だと指摘している(Funke et al., 2023)。フンケらは、ポピュリズムについて書かれた750件もの書籍・記事・論文を対象に機械言語処理で、「民衆対エリート」の構図に基づく言辞がみられるかを基準に、だれがポピュリストであるかを特定している。ポピュリストの割合は、2000年以降、歴史的に高い水準になっている。ポピュリストには左右両翼のものがある。国によって、ポピュリストに支配されやすい国とそうでない国が存在する。左からは経済的な訴えが目立ち、右からは文化的視点からの訴えが多かった。ポピュリストは平均して7.5年在任し、非ポピュリストの4年よりも長い。ポピュリストの36%が二期以上務めたのに対し、非ポピュリストで二期以上務めた者は16%に留まる(政治的パフォーマンスは良好である)。経済パフォーマンスをみると、図3.5(b)の示すとおり、15年後の一人当たりGDPでみて、ポピュリスト政権でなかりせばという反実仮想と比較して10%も低かった。他方、不平等の改善*3) 日本では小泉政権がポピュリストに分類されている。ファイナンス 2025 Feb. 29(出典)Funke et al(2023)コラム3.1:ポピュリズムと民主主義の頑健性
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