連載セミナーに出てくるという面もあって、ユダヤ人留学生などが安全に過ごせないという状況が一部で生まれております。ドイツ人にとっては、戦後、ヴァイツゼッカー演説等を通じて「自分たちは過去の克服をやったのだ。」という気持ちでいたのに、ここに来て反ユダヤ主義が出てきて、「これまでやってきたことは何だったのか」と、ものすごくショックを受けて落ち込んでいます。途方に暮れているという印象を受けます。ドイツはユダヤの問題を背負っていることに加えて、東西ドイツが統一して、もう30年以上経つのですけれども、今になって、新たに亀裂が見えてきている面があります。ドイツは多少西の方が大きいですが、気持ちの上ではほぼ半々で、東側が全く違う選挙行動を取ると、西側のドイツ人としては「俺たちはこの30年間何をしてきたのか」という気持ちになっているのです。他方で東側のドイツ人としては、1990年で西側の占領国になったような気持ちがあります。東西統一後、行政や教育など、すべて西側のものがそのまま入ってきて、自分たちの過去を完全に否定された、という心理的な負担感が今になって出てきているのです。東側には従来からソ連軍がずっといて、それが嫌だった面もあると思うのですけれども、懐かしい面もあるみたいなのです。ですから、信頼する国というのは世論調査を取っても東西で全然違う結果となります。今一番政策の違いで出ているのは、ロシアのガスを買わなくなったことを「仕方ないと思えるか」、それとも「なんでそんなバカなことをしているのかと思うか」であり、これは東西ではっきりと分かれるのです。そういう意味で今、ドイツはある種のパラリシス日本は厳しい財政状況にもかかわらず、お金がかからなくなる予想はない、防衛費がかからなくなる予想はない、ということで、これは本当に死活問題です。ではどこを節約するのか、誰から税金を取るのか、という議論を政治がしっかりしないといけないと思います。また、人口が全体として減少するのは避けられないので、一定程度外国人が入ってくることも避けられないですが、必要なだけ全部外国人が入ってくるということにも多分ならないだろうと思います。社会もそうですし、自衛隊もそうですし、これまでとは違った、人手がかからないような制度やシステムを構築していかないといけないと思います。エネルギー政策についても、もう一度議論しななければなりません。例えば原発は何割ぐらいとするのか、再エネについても、日本の気候環境、自然環境に適した再生可能エネルギーとは何か、どの技術に最も投資する必要があるのか、ということについて、専門家パネルなどをつくって議論しないといけない時期に来ていると思っております。ご清聴ありがとうございました。岩間 陽子(いわま ようこ)政策研究大学院大学 教授(機能麻痺)に陥っている気がします。令和6年度職員トップセミナー京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程修了。京都大学博士。京都大学助手、ベルリン自由大学留学中に、ベルリンの壁崩壊とドイツ統一を目撃する。在ドイツ日本大使館専門調査員などを経て、2000年から政策研究大学院大学助教授。同大学准教授を経て、2009年より教授。専門はドイツを中心としたヨーロッパの政治外交史、安全保障、国際政治学。著書に『核の一九六八年体制と西ドイツ』(有斐閣、2021)、『核共有の現実:NATOの経験と日本』(信山社、2023年)、『ドイツ再軍備』(中央公論社、1993)、『NATO(北大西洋条約機構)を知るための71章』(明石書店、2022年)、『EUの世界戦略と「リベラル国際秩序」のゆくえ―ブレグジット、ウクライナ戦争の衝撃』(明石書店、2022年)、『冷戦後のNATO:“ハイブリッド同盟”への挑戦』(ミネルヴァ書房、2012)、Joining the Non-Proliferation Treaty:Deterrence, Non-Proliferation and the American Alliance,(John Baylisと共編著、Routledge:2018)などがある。安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会、法制審議会、内閣府国際政治経済懇談会など、多くの政府委員会等のメンバーも務める他、(財)平和・安全保障研究所理事、日経Think!エキスパート、毎日新聞書評欄「今週の本棚」、毎日新聞政治プレミア執筆者も務める。講師略歴日本のとるべき道 93 ファイナンス 2025 Jan.
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