連載セミナー ファイナンス 2025 Jan. 92ら、マルチの関係とバイの関係を上手に使い分けて、付き合っていかないといけないと思います。経済安全保障に関しては、「ディカプリングではなくて、ディリスキングだ。」とはいうのは、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が作った表現ですが、ただそうは言ってはみたものの、非常に難しい局面に来ていると思います。電気自動車については、中国は売りたい気持ち満々です。本当に安い電気自動車で攻勢をかけて売られたら、市場が相当塗り替わるな、という気持ちもあるので、ヨーロッパとアメリカそれぞれに今反応しているのだと思いますし、日本もどういう政策を取っていくか悩ましいところだと思っています。特に難しいのは「グローバル・サウス市場における競争力を維持しながら、ディリスキングするとはどういうことなのか?」ということです。グローバル・サウスが抜け穴になるわけです。そこを通ってロシアや中国に行くモノはいくらでもありますし、民間の技術で戦争に使われているものは、ドローンを始めとしてたくさんあります。一方で、そこの穴を防ぎたいという気持ちがあるのです。例えばファーウェイの通信機器を日本であまり使わないようにしても、政策研究大学院大学などではアフリカ等からたくさん学生が来ますが、みんなファーウェイの通信機器を持っているわけです。それを使用しないとネットワークが成立しないという状況になってしまいます。本当にこれから舵取りが難しいなと思いますし、アメリカの言うことだけに従っていても、日本企業が本当に生き延びるシナリオになるのか、そこは判断が求められるところだと思います。エネルギー政策に関しても同様です。原発に関しては、とりあえずは延命ということでそれほど異論が出なくなっている感じですが、次世代の原発にどの程度投資するのか。石破首相は原発よりは再エネという方向で思っておられるように発言されています。本当にそれでいいのか考えていかないといけないと思っております。トランプ氏は大統領だった時に「地球温暖化なんて大嘘だ」とおっしゃっていましたが、世論がそれでついてくるのか、という点については興味深いところです。このあたりも民主党と共和党とでは相当違ってくるのでしょう。続いて人の移動です。これは先進国共通の悩みで、まだ日本も入り口に立ったところです。アメリカにおける移民数とその全人口に占める割合を見ていただくと、1900年前後で3割近くまで上昇し、それが一旦低下して、最近またほぼ同レベルに上がってきています。1900年前後の移民の流入は、19世紀中ごろに急速に鉄道網と大西洋航路が発達したこと、アイルランドのジャガイモ飢饉、ロシアの革命など複合的な要因によって、カトリックの国の人とユダヤ人が19世紀後半に大量にアメリカに入ります。加えて、アジアから中国人と日本人が入って、今までのアメリカ人でない人たちが、ものすごく大量に入ります。それに対する反発が1920年代の移民法という形につながるのです。日本では、移民法で日本人が締め出されたという意識が強いですけども、絶対数ではヨーロッパ人の方がはるかに多く締め出されています。ユダヤ人とカトリックが違和感の大きな原因で、スピルバーグ監督の自伝的映画を観ると、いかにユダヤ人が差別されたか、というのが出てきます。この移民問題がすごく今効いてきており、特にフランスとドイツにおいて内政に影響が出ています。来年のドイツ連邦議会選挙、再来年のフランス大統領選挙でどういう結果が出るかによって相当違うかな、と思っております。また、ドイツが弱くなると、EUとNATOに響きます。特にEUは今、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長がドイツ人で、母国のバックアップがない状況になるとできることが限られてきますので、その影響がかなりあると思います。加えてドイツの場合、中東問題が相当効いています。ヨーロッパに入ってくる移民のかなりの割合がイスラムなのです。彼らは完全に反イスラエル、反ユダヤで、それに便乗して、従来からあった反ユダヤ感情が表面令和6年度職員トップセミナー経済政策(経済安全保障)ヨーロッパへの影響Migration(人の移動)「移民・難民」
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