連載セミナー ファイナンス 2025 Jan. 90QUAD2022年に一度、イスラエルに行く機会がありました。ヨルダン西岸地区には、ユダヤ人の住居地が点々と出来ていて、そこをアリの巣のように壁で囲んだ道路で繋ぐという、すごく不思議な光景を目にしました。私は最後の西ベルリンを半年ほど体験したので、壁は見たことはあったのですけれど、イスラエルとアラブの間の壁はちょっとレベルが違うと思いました。そうやって自分たちを壁の中で守りながら、少しずつ西岸地区へも支配を広げていこうということを、既に以前からネタニヤフ政権は行っていましたが、今回の戦闘が始まったことで、後戻りができなくなりました。今ネタニヤフ政権で「二国家解決案」に回帰する道筋は全く見えません。また、連立で極右派が入っていますが、彼らはユダヤがあの土地にいることに宗教的な正当性があると確信しています。一方で彼らが連立から離脱すると政権が崩壊するという状況にあるので、非常に難しい状況です。特にアメリカとヨーロッパの諸国は、イスラエルに対する歴史的なコミットメントを持っており対処が難しいうえ、UNIFIL(国連レバノン暫定軍)の問題も出てきていて、次第に手を焼いている感じが強くなってきています。トランプ氏の場合は、イスラエルに関して多分強力なテコ入れをしてやれ、と言うのだろうと思います。そうすると、ある程度のエスカレーションが一定期間起こって、イスラエル軍に実力があれば、実効支配地域を相当広げるのかなと思います。中期的にそれは周辺国のテロリストたちにとって、ある種のカンフル剤になってしまうかもしれず、安定というのはなかなか難しいです。もう一つ心配するのは、アメリカが完全にイスラエルに寄り添ってしまった場合のグローバル・サウスへの影響です。グローバル・サウスは、ガザへの攻撃の段階で相当反イスラエルになっているのが現状です。皆さんも出張に行かれると、いろいろなところで親アラブの学生デモに遭遇するかと思いますけれども、ああいう感じがさらに強くなってくる恐れがあるという気がします。アジアに関してはそんなに議論はないかなと思っておりましたが、アジア版NATO構想などが議論を起こしておりまして、「そもそも NATOとは?」という説明を改めて一般向けの講演ではしなければならなくなっています。集団安全保障と集団防衛と集団的自衛権というのも、それぞれ違う概念だ、という説明も必要になっている状況です。日米地位協定とアジア版NATOを実際にどうするのかは分かりませんが、トランプ氏はどちらも問題外でしょう。「何を言っとる、我々の兵隊は私たちを守るのだ。」と言われて終わりかな、と思いますし、多分アジア版NATOには何の興味もないと思います。民主党政権であれば、おおむねバイデン政権の踏襲であり、「ハブ・アンド・スポークス型」から「ネットワーク型同盟関係」への転換が起こってきたのが過去4年間だと思います。その中でも一番大きかったのは日韓関係が改善したことで、東アジアのネットワーク化がずいぶん容易になったと思います。今までそれぞれがアメリカと1対1で結びついていたのが、縦というか横というか、この結びつきが2か国、3か国、いくつかのグループができていて、それがネットワーク化だと私たちは呼んでおります。一番派手ですけれど、それほど実態がないのがQUAD(Quadrilateral Security Dialogue)です。インドはロシア産の石油を買ったりして、一筋縄ではいかない感じはありますが、人口が一番伸びている国でもありますし、非常に可能性を秘めている国ですので、日本としては大事にしなければいけないパートナーであることは確かです。ただ、モディ首相の力も最近不確かになってきている感じもありますし、ここのところ少しフェーズが変わってきているかなという気はします。したがって、このQUADに関しては、すごく頼りになるというものでもないという感じですが、インド洋のことを考えると、インドなしでは語れないので、続いていくだろうと思います。1. 伝統的なハブ・アンド・スポークス型からネットワーク型へ2. インド太平洋同盟のネットワーク化(1):令和6年度職員トップセミナーアジア
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