連載セミナー「生かさず殺さず」という状況が続いているわけです。FDP(自由民主党)党首のリントナーという人が財務(キリスト教民主/社会同盟)も野党第一党になってアメリカはどうやって戦争を終わらせるのかというシナリオを多分持っていないのです。ロシアに完全勝利されると、事実上、バルト三国とポーランドとの国境までロシアが出てくるわけで、それはそれで困る。だからといって、ウクライナにやりたいようにやらせて、戦争がエスカレートしてロシアが押し戻されると、ロシアが核兵器を使うのではないかという恐怖心をアメリカは持っている。そのためにゼレンスキー政権は相当疲弊しているな、という印象はありますし、ヨーロッパに行って聞いていても、彼の評判は必ずしも良くありません。トランプ氏の場合、「24時間で戦争を終える」という言い方をしています。もしもアメリカがウクライナの軍事支援を全部やめるとすると、ウクライナの戦争継続は相当困難だろうと思います。ただ、その際にロシアの地域覇権を容認するのかどうか。そうするとNATOの防衛というのは非常にコストが高くなりますが、「そこはもう知らない」とトランプ氏が言えるのか。このあたりはちょっと読めません。今、ドイツが目覚めていません。ドイツがヨーロッパで一番大きな経済なのですけれども、そこがマイナス成長になっているというような状況です。加えて、相で、彼が非常に財政均衡に厳しいため、政権運営がとても大変なのです。戦争をやっているし、コロナ明けですし、ここは例外として何年かは赤字を容認してもらいたい、と他の党は思っています。多分国民もそう思っているのでしょうが、とにかく財政均衡だということで、身動きが取れない感じです。連立を組み替えて、FDPではなくCDU(キリスト教民主同盟)と一緒にやったらどうか、という話も出ているくらいですけれども、そういうことはドイツの政治では過去に数回しかなく、総理大臣というのは1回やったら4年間はやるものだ、という価値観が強いのです。さらに、来年の9月が連邦議会選挙で、気持ちの上では事実上選挙戦入りしています。CDU/CSUいるので、ここで政権入りして人気を落とす理由はない、という気持ちだし、与党のSPD(社会民主党)としてもここで大連立をやったら、非常に戦いにくいな、という気持ちはあるのだと思います。NATOをどうするか、EUをどうするかという時に、今まではドイツとフランスがそれなりの存在感を持って方向を示してきたのですが、そういう状況ではなくなってきていて、ポーランドが必死になって頑張っているという印象です。アメリカが民主党路線でズルズルと戦争を続けた場合でも、いずれはどこかで停戦状況に持ち込むしかないということが分かっているので、ゼレンスキー大統領も「勝利プラン」と言い始めているのだと思います。ただ、停戦交渉に持ち込む前にある程度押して交渉材料を持っておかないと、そもそも交渉にならないという気持ちもあって、今いろいろな動きをしているのだと思うのです。どこかの時点でウクライナとロシアが停戦したとしても、ロシアの侵略に対して正当性を与えることはできません。停戦はするけれど、講和条約は締結しないという状況、すなわち朝鮮半島であるとか、冷戦期の東西ドイツであるとか、そういうような状況が生じて、長期的課題になっていくのではないかと思います。ただ、停戦に持ち込むためにも、朝鮮半島で韓国が1953年に停戦する時に米韓安全保障協定を締結させているように、ウクライナ側が安全保障をアメリカからどうやって得るかが問題です。一番良いのはNATOに入れてもらうことだと彼らは思っていますけれども、そこをどうするかという課題があります。では何年も戦争を続けるぐらいの余力があるのか、というと、だんだんそこは厳しそうな感じがしております。ウクライナがクルスクに入ったのも、戦局を動かしたいのと同時に、ロシアの南北を分断する、それから停戦交渉時の材料を持っておく、といういろいろな動機があったのかなと思います。中東については、私の専門ではないのでごく簡単に触れておきます。よくご存知のことかと思いますけど、国連が提案した「二国家解決案」というものがあるわけです。パレスチナとイスラエルがどうやってあの地域で共存するかということです。中東問題 89 ファイナンス 2025 Jan.
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