ファイナンス 2025年1月号 No.710
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連載セミナー ファイナンス 2025 Jan. 88軍事力について、特に核兵器に関しては、民主党はどちらかというと軍縮を望む人が党内に強い伝統がありますから、これは若干違いが出てくるかなと思います。これから中国が戦略核の数を1,000、1,500と伸ばしていった場合、アメリカは今までロシアだけを見て自分の力を考えていれば良かったのですが、それぞれと一対一でバランスすればいいのか、米中を足した合計とバランスしなければならないのか、多分議論が出てくるでしょう。どの程度軍事力にお金を使うのかは、相当な違いが出てくる可能性があると思います。アメリカは、短距離、中距離の核を冷戦終結後にはほとんど作ってこなかったのですけれども、実際に極東などで核の使用があるかもしれない、あるいはロシアが核の使用をちらつかせ脅しているという状況で、今のままでいいのか、という議論も多分出てきます。そこでもやはり、共和党の方が積極的にいろいろな核兵器を持っていこうとする政策を進めるのかなと思っています。NATO加盟国を示すヨーロッパの地図を見ていただくとお分かりのように、ウクライナがNATOに入ってしまうと、ロシアには自分の喉元にNATOがやってきている、という感覚になるのだろうと思います。他方で、ロシアの飛び地(カリーニンググラード)にもミサイルが置かれていると言われていて、バルト三国の辺りをロシア軍が狙おうと思ったならば、逆にNATOの防衛は相当厳しいのが現実としてあります。ドイツ軍はリトアニアに数千人単位で展開し始めていますし、アメリカも気を配ってはいますけれども、もしロシア軍が総力を挙げて、こちらに勢力を向けたならば、かなり防衛は難しいし、ポーランドに関しても同様であります。地形は大事で、日本が海に囲まれているというのは本当に恵まれています。もちろんミサイルが飛んできたら難しい面はありますが、それでもやはり距離があると、ミサイルが飛んでいる時間が長いので落とす時間もあるのです。ウクライナの首都キーウはロシア領から少し離れているので、飛んでくる間に見つけて落とすことができます。やはり距離というのは大事だし、間に海があれば防衛のためにはすごく助かることなのですけれども、バルト三国やポーランドの辺りは全くそういうものがない。山もほとんどないという地形で、戦車部隊が入ってくるとなかなか止めることは難しいのです。歴史上、ポーランドという国はドイツとロシアの間に挟まれて、何度も国境があっちに行き、こっちに行き、ということになりました。バルト三国も国ができたり失われたりした歴史を持っていますので、そうしたことに対する恐怖心はすごく強い。トランプ政権が実現してNATOへの関心が薄れた時、自分たちはどうすればいいのだろうか、という気持ちはとても強いのです。ですからポーランドはGDP3%を超える防衛費を使って、軍隊も30万人まで増やそうとしています。そうすると多分、欧州で一番大きな陸軍国はポーランドということになるかもしれないというような、それくらいの危機感を持っていると思います。東アジアを軽視することは、いかにトランプ政権でも難しいのではないかと思いますけれども、ただ、「自分でできることはやってください」という要求は、おそらくはどちらの政権でも強くなると思います。その分、日本がかなり頑張らないといけない面は強くて、かつ、私などが最近言っているのは、「グローバル・ウェスト」という連携です。NATOとインド太平洋のパートナー国が連携できるようにして、兵器生産や兵器の蓄積、あるいは情報のシェアや、サイバーでの協力など、そういうことをしっかりやっていかないと、立ち行かなくなると思っております。アメリカが強い時代は、アメリカが頑張れば何とかなっていたのですけれども、アメリカは今、ウクライナに加えて、中東を抱えている状況です。極東の平和を守るためには、日本、韓国、フィリピン、オーストラリアあたりが、できることを必死でやらないとどうにもならないという感じがしております。ウクライナに関しては、最近ゼレンスキー大統領が「勝利プラン」という言葉を口にし始めていますが、1.NATOとロシア2.「グローバル・ウェスト」の可能性?令和6年度職員トップセミナー同盟関係ウクライナ問題

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