ファイナンス 2025年1月号 No.710
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連載セミナーうも最近見えてきている。その一つはやはり中国ですし、その後インドであるとか、アフリカであるとか、それ以外の国が出てくるかもしれない。覇権の移動の傾向が顕著に現れているのは、まず人口です。人口の中心が移っています。人口の中心が移るというのは、経済成長の中心もやはり移りつつあるのかもしれません。20世紀後半以降の日本は、アメリカの秩序の中で生きてきました。日本、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアなどは、アメリカの秩序の中にいて、そこで成長していったのです。覇権といっても、いろいろな覇権があります。いずれにせよパワーに支えられているのですが、パワーにも色々あり、ソフトパワーとハードパワーという考え方があります。これから私はそれをトランプ氏とハリス氏の説明に使おうと思っていますが、ソ連とアメリカについてもこれである程度は説明できます。どちらもある種の帝国だったと思うのです。アメリカ自身も覇権国家であることはソ連と変わりないのですけれども、その同盟国を自分の陣営にひきつけておくために、どういうパワーの使い方をするのか、という点で違いがありました。アメリカの方が対話や利益誘導、あるいはアメリカ自身の魅力、価値観で同盟国をひきつけておく面が大きかったのに対して、ソ連は衛星国をむき出しの力で押さえつけていく面が強かった。多分長持ちするのはソフトパワーの方だろうというのが、よりリベラルな考え方です。むき出しのパワーで長持ちさせようと思うと、それだけコストも高いですから、そのあたりはソ連の帝国末期に出ているのかなと思います。一方で、アメリカが非常にグラグラしていても、同盟国が離反するどころか、一生懸命アメリカを支えているというのも、その性格を示しているのかなと思います。今後、アメリカの覇権が続くことが、当面は日本やヨーロッパのパートナー諸国の目的なのですが、価値中立的に見ていけば、交代というのはあるかもしれない。歴史的にはもう何度もそれが起こってきたわけで、アメリカの覇権が永遠に続くだろうと仮定する必要はなく、中国やインドなど違う国に交代していくことがあるかもしれない。20世紀の初頭は、覇権がイギリスからアメリカに引き継がれた時代で、イギリスの力が完全に落ちているのだけれども、アメリカの方も準備ができていなくて、国際経済にしろ、安全保障にしろ、マネジメントする意思がなかったという時代が1930年代だと思うのです。このように主役交代がうまくいかないと、非常に大きな混乱が起こる。同様の危険がやはり今あると思います。我々がまず注意しなければいけないのが、覇権国の力が落ちてきていることです。皆さんもいろいろな面でお感じになっていると思います。例えば、中東で起こっていることもそこに少し絡んでいると思います。一番怖いのは「主役交代に関わる大戦争」です。そうなるとルールやシステムが変わるということもあり得ます。例えば中国が覇権国になったとしたら、彼らはかなり違うルールを適用しようと思うでしょう。ハリス氏とトランプ氏の2人については、それぞれパワーの使い方というのは違いますけれども、最終的にアメリカの力とか国益を追求するということについては同じであろうと思います。ただし、その際に「アメリカ・ファースト」と言い過ぎて、同盟国の利益を全く考えないという面が出てくると、巡り巡ってアメリカ自体の国力の低下につながるような気がします。もしトランプ政権が実現したとして、そのあたりのことをどういうふうに周囲が、あるいは同盟国が彼を説得していくか、ということがポイントになっていて、何が中期的にアメリカの利益なのかについての筋書きをどう作っていくのかが、大事なのかなと思います。どちらにしても、アメリカの産業の復活ということは、考えるでしょう。ですから案外、経済安全保障などでは、ハリス氏とトランプ氏の間で、それほど大きな差は実際には出ないのかもしれない。対中国に関しては、完全にディカプリングする余裕もないけれども、今までどおりで中国がやりたい放題でも困る、その間でなんとか道を見つけていくというところは、それほど変わらないと思います。3.ハリス氏VSトランプ氏2.国際関係における「パワー」(力) 87 ファイナンス 2025 Jan.

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