ファイナンス 2025 Jan. 86のは強力なシステムへの挑戦者が出現する時です。それまでのルールや価値を共有しない挑戦者が出てきて、それがダイレクトに既存の秩序にチャレンジしてくると、世界戦争、システム破壊戦争といった、大きな戦争となり、講和というプロセスを経て、システムを再形成しなければならなくなります。近代史においては、こういう大きなプロセスが100年に1回ぐらいは起こることが多かったと見ています。一番最近の世界大戦とは、それまでイギリスが一番強かった世界において、ドイツという挑戦者が現れて、二つの世界大戦というシステム破壊戦争が起こったことです。その後の冷戦は、いわゆる双極体制と言われていますけれども、ここでソ連が一矢報いずに滅んでしまったというのは、歴史的に見てもとても珍しいことです。ここで戦争が起こらなかったことについては、一般的には核兵器の存在が大きかっただろうと言われていますけれども、同時にゴルバチョフ氏の個性であるとか、政治のやり方なども関係していたと思います。ただ、必ずしもそこで何もなかったことが良かったのかというと、2022年にプーチン氏が起こした戦争は、1989年、1990年から今まで起こったことに対するソ連の異議申し立てのようなところがあります。問題を先送りした部分が返ってきた、という面もあるのかなと思います。20世紀半ばから現在までは、アメリカの覇権の時代であると言って良いと思います。ここに挑戦者がどご紹介にあずかりました岩間でございます。私は国際関係論を長年研究しておりますが、国際関係論の学問としての歴史は比較的浅く、本格的にこういう形で議論するようになったのは、20世紀に2つの大戦があったことがきっかけです。そこから国際関係をシステムとして見るということが始まりました。そもそもこの大戦争の体験から出発しているので、「大戦争をどうやって防ぐか」が国際関係論の最大の「問い」になります。秩序があることは平和の大前提であり、ルールや共通の価値が全くない秩序というのはありえないのです。私たちは「ウェストファリア体制」と呼んでおりますが、いわゆる国家間体系というのは、17、18世紀ぐらいから徐々にまずヨーロッパで出現したものです。それが17世紀以降、植民地を通じて世界に拡大します。ヨーロッパの世界への大膨張時代を経た後、20世紀後半に入って、非ヨーロッパ世界の植民地が次々に独立していくことで、ヨーロッパのシステムが世界に広がった、と私は説明しています。国際システムは、大きな力のある国が1つか、2つか、5つぐらいかで分類され、それぞれが単極、双極、多極の秩序だと呼ばれます。大きな国の間にルールや原則に関する一致がある間は比較的平和が保たれているのですけれども、国際関係として最も心配するのは、一つのシステムが丸ごと壊れるような戦争が起こることです。これが起こるのはどういう時かというと、一番多い1.アメリカの覇権令和6年10月16日(水)開催アメリカの覇権・世界の構造講師演題はじめに:国際関係論の問い=「戦争」と「平和」財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute連載セミナー 岩間 陽子 氏 氏岩間 陽子(政策研究大学院大学 教授)(政策研究大学院大学 教授)米国大統領選挙後の 米国大統領選挙後の 国際関係国際関係令和6年度職員 トップセミナー
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