ファイナンス 2025年1月号 No.710
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す*18。東ドイツ市民は不満を抱えやすく、既存政党へファイナンス 2025 Jan. 84海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー 政府のシュナイダー東独問題担当代表(SPD)は、昨年も例年通り統一記念日(10月3日)に先立って統一後の状況に関する報告書*14を提出したうえで、2024年9月に旧東独3州(テューリンゲン州、ザクセン州及びブランデンブルク州)で行われた州議会選挙におけるAfDの成功*15について「驚異的で幻滅するものであるとともに憂慮すべきこと」であり、「連帯感の欠如」の表れであると述べました。報告書内の世論調査結果では社会全体の「連帯感」は、平均的に旧東独地域で旧西独地域より低く感じられており、中学歴及び低学歴の人々及びAfD又はBSW*16の支持者の間で平均より低く感じられる傾向にあるといいます。同報告書に関する連邦政府のプレスリリース(2024年9月25日)によると、東ドイツ人口はドイツ総人口の20%近くを占めていますが、主要メディア関係者のうち8%、企業管理職に至っては4%しか東ドイツ出身がおりません。連邦政府高官については15%とのことです。また東ドイツの労働者賃金は西ドイツより30%近く低く、東ドイツの世帯の平均資産は、西ドイツの50%にも満たないそうです*17。こうした背景から、東ドイツ市民は自らを「二級市民」のように感じているとシュナイダー代表は認めまの不満から有権者の一定割合がかつてのナチスに近い思想を掲げるAfDに、特に国内外の情勢が混沌を深めていった2022年以降、流れていったと見られています。しかし最近ではAfDの支持層が単に既存政党への反発から流れてきた人々ばかりでなく、純粋にAfDの思想を支持している人々も一定割合いることが明らかになっています。例えばメルケル政権が2015年以降、シリアからの難民を大量に受け入れた後の社会情勢を見てみましょう。中東からの大量の難民受け入れによりドイツ国内の治安は悪化し、生活の安全が脅かされていると感じている市民が増えています。社会、ほとんどすべての物事が変わったということを意味していることが今日まであまりにもきちんと認識されていないと私は思います。(中略)東ドイツが終焉を迎え、自分の考えや人生を決定できる自由をやっと手に入れたことで、多くの新しいチャンスが生まれました。(中略)しかし同時に、まったく新しい生活環境の中で自分の道を進んでいこうと試み、袋小路に迷い込んでしまった人も少なくありません。以前は求められていた仕事のスキルが突然もうそれほど、あるいはまったく意味を持たなくなってしまいました。(中略)このような悲しく暗い経験も私たちの歴史の一部です。私たちはそれを決して無視したり、忘れたりしてはいけません。それは、一人一人の経歴への敬意からであることはもちろんのことですが、それに加え、私たちの国はまだ本当に一つの国になるプロセスの途中にあり、意識的であろうとなかろうと、突然出自を理由として否定的な評価を下される人がないように気を付けなければならないからです。」ベルリンの壁は崩れても、東西ドイツ人の心理的な壁はまだ完全に崩れ去ったわけではありません。連邦写真5 上弦の月が浮かぶ2024年11月9日のブランデンブルク門前。ベルリンの壁崩壊から35周年を迎えたこの日、大型スクリーンには「自由を高く揚げよ!」とあり、ライトアップされたステージ上の多数のスクリーンには市民が描いた「自由」のモチーフが展示されている。[撮影:筆者]*14) 「東と西−自由、統一、そして不完全(Ost und West. Frei, vereint und unvollkommen)」*15) 2024年9月1日に旧東独であるザクセン州・テューリンゲン州、同年9月22日にブランデンブルク州の3州で州議会選挙が実施されたところ、いずれの州でもAfDが躍進し、ザクセン州ではCDU(41/120議席)に次ぐ40議席、テューリンゲン州では第一党(32/88議席)、ブランデンブルク州ではSPD(32/88議席)に次ぐ30議席を獲得。いずれの州でもAfDと連立を望む政党はないため、AfD以外の政党で連立を組み、政権党を構成している。*16) BSW:Bündnis Sahra Wagenknecht(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)。旧「左派党」からヴァーゲンクネヒト議員らが離党して2024年1月*17) この資産の差異の背景には、そもそも西ドイツに投資家が多く東ドイツの生産性が高い企業がそれら投資家に買収されていき、結果的に東ドイツには*18) 「二級市民(Bürger zweiter Klasse)」意識については異なる見解もある。2024年8月22日付の当地高級紙フランクフルター・アルゲマイネ紙は、アレンスバッハ世論研究所への委託調査結果を基に、59%の東ドイツ市民が「東ドイツのほとんどの人が自らを二級市民であると感じている」と認識する一方で、「自分自身は二級市民であると感じている」と答えた東ドイツ市民は32%に過ぎず(2002年は57%)、同51%は自らを二級市民であるとは感じていないと回答。東ドイツ市民の自己認識が必ずしも二級市民であるわけではないことを示した。に結成した新党。ポピュリズム極左政党と見なされる。小売業、接客業、飲食業など資金力や必要な資格の点で参入障壁が低い小規模企業が残りやすかったことがある。

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