ファイナンス 2025年1月号 No.710
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44444連載海外 ウォッチャーFDPを追放し、連立解消のうえ翌年(2025年)9月28日に予定されていた連邦議会選挙を前倒し実施しFDP追放により連邦議会における少数連立与党とな(当時)の下で連邦財務省の次官を務めた人物です。信号連立政権内の主にリントナー財務相に端を発する不仲は以前から明らかではありました。しかし世論調査では非政権党であるCDU/CSUの支持率が30%を超え圧倒的で、極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)*8」が20%近くと2位につける一方、連立政権各党の支持率は低迷していました。このもとでても、連立各党の敗北は必至でした。それゆえ敢えてり、連邦政府予算や重要法案の成立が困難となる道を突き進む合理性は見出せず、畢竟惰性的に翌年9月の選挙まで現体制が続くのではないかと思われていたのです。ところがショルツ首相にとってのより合理的は、FDPと袂を分かつことでした。リントナー財務相から予算審議や法審議における争点について譲歩も妥協も得られないのであれば、それよりはメルツ党首率いるCDU/CSUから部分的にでも協力を取り付けられればよいという判断であったのでしょう。予兆とは、事案が発生した後に遡及的にしか認識できないものであることを実感しました。11月6日夜のショルツ首相声明におけるリントナー前財務相の解任と連邦議会選挙の前倒し実施が発表された翌日、連邦政府から4名いたFDP閣僚の姿が正式に消えました。財務相の他、司法相、教育・研究相の3名が去り、残りのデジタル・交通相はFDPを離党して無所属のまま政権に留まりました。そのデジタル・交通相が司法相を兼任し、食料・農業相(緑の党)が教育・研究相を兼任することになりました。財務相の後任にはショルツ首相の側近として首相府の次官を務めたクキース氏(SPD)が就任しました。クキース新財務相はメルケル政権下のショルツ財務相連邦議会の議席数も与野党構成が変わりました。信号連立3党の議席数は過半数367議席を上回る415議席でしたが、FDPが与党から野党に転じたことで、与党側は90議席を失い325議席と過半数を下回りました。少数与党の議会・政権運営が困難を極めるのは何処も同様です。何よりも本来であれば2024年11月中に成立の目処がついていたはずの2024年第1次補正予算と2025年予算の審議が停止となり、本来の1月1日からの執行開始に間に合わず、結果として2025年中はしばらく暫定予算が続くこととなりました。連邦議会選挙の前倒し実施日は2025年2月23日に決まりました。任期満了に因らない前倒し選挙ですので、解散総選挙の形となります。ドイツの解散プロセスは少々興味深く、首相が自らへの信任について問うな判断動議を連邦議会で発議し、過半数が「信任しない」、すなわち不信任の場合に首相は(特殊な状況を除き政治的実権を有さない)連邦大統領に議会の解散を提案でき、首相の提案を受けて大統領は連邦議会を解散します。ショルツ首相は2024年12月11日、連邦議会議長宛に信任投票の動議を提出し、これを受けた連邦議会での信任投票は12月16日に実施されました*9。その結果ショルツ首相は不信任となり、首相の提案に基づいてシュタインマイヤー大統領(SPD)は12月27日に連邦議会を解散しました。爾後2月の投票日までの間、選挙運動が展開されます。投票結果の判明から新たな政権が樹立するまでには数か月を要します。ドイツの選挙は比例代表を軸としつつ小選挙区も並立するシステムであり、単独政党が議席の過半数を有する状況は少なくとも第二次世界大戦後の西ドイツと統一ドイツでは生じていません。最大得票政党は連立パートナーを定め、連立協定を結んで政策の方向性について擦り合わせ、合意に至ります。その連立協定が各党の党大会で承認されるまでに更なる日数を要するのです。すべての手続きが完了して新政権が樹立する時期は2025年4月下旬以降ではないかと見られています。(2)新体制と今後の政治日程*8) AfD(Alternative für Deutschland)は2013年創設。EUや共通通貨ユーロに懐疑的。反移民・亡命政策の立場をとり、家族政策や社会政策についても保守的な立場を強く打ち出す。外交・防衛政策では、プーチンのウクライナ攻撃後もロシア寄りの路線を堅持。複数州の憲法擁護庁から「極右」認定を受け、連邦議会でも州議会でも主要政党はAfDを連立パートナーとはしない方針を示している。*9) 投票は記名投票方式。投票の結果、総議席数733(過半数367)のうち票を投じた議員は717名。信任が207票(うちSPDは201票/207名)。不信任が394票。棄権が116票。信任を投じなかったSPD議員6名はいずれも投票に不参加。 81 ファイナンス 2025 Jan.

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