ファイナンス 2025年1月号 No.710
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説*3は、協定の中で「連立与党は177ページの連立協連載海外 ウォッチャーCDU/CSU*2)が政界引退を表明して迎えた2021年93党連立政権が樹立しました。この政権は各党の政党1949年に樹立したアデナウアー政権以来の事態で、の過半数355議席をこれら2政党でカバーできました。対して2021年選挙実施直後の信号連立の議席数は、福祉国家志向のSPDが206議席、環境・人権保護を志向する緑の党が118議席、経済的自由主義を志向するFDPが91議席の計415議席で、全735議席の過半数368議席をなんとか上回りました。このとき非政権党となったCDU/CSUは197議席でしたが、第1党となったSPDにとって前政権と同じパートナーで連立を組む意思はなく、3党間の妥協的な連立協定に基づく信号連立政権が樹立したのでした。連立協定が合意に至ったタイミングでの大衆誌「シュピーゲル」の社定の中で987回も何かを『するつもり(werden)』であり、494回も何かを『したい(wollen)』」と述べられている点を皮肉り、諸政策の方針が明確ではなく、改革案の中には以前から存在していた社会的現実を追認したに留まる内容も含まれていると協定を批判しました。政策志向の異なる3党が連立を組み、足並みを揃えることの難しさが伺えます。このような盤石とは評し難い政権体制のうえに、外生的困難も降り掛かります。新型コロナウィルスの第一波がメルケル政権下の2020年3月に襲来し、ショルツ政権下の2022年4月にドイツ全土で感染予防措置が終了しました。ショルツ新政権の樹立は2021年122005年から16年にわたりドイツを率いたアンゲル・メルケル前首相(キリスト教民主/社会同盟:月26日の連邦議会選挙では、メルケル政権で副首相兼財務相を務めたオラフ・ショルツを首相候補として擁立した社会民主党(SPD)が第一党となりました。二カ月余りに及ぶ連立協定交渉を経て、12月8日に緑の党、自由民主党(FDP)を連立パートナーとするカラーである赤(SPD)、緑(緑の党)、黄(FDP)の組み合わせから「信号連立(Ampelkoalition)」と呼ばれました。「ました」と過去形であるのは、ほんのつい2か月余り前の11月6日、ショルツ首相がリントナー財務相(FDP)を解任したことでFDP閣僚が政権を去り、信号連立政権が崩壊したためです(後述)。信号連立政権は内生的にも外生的にも困難を抱えていました。内生とは3党連立という事象そのものです。メルケル政権までは2党連立のみが続いておりました。第4次メルケル政権(2018年3月~2021年9月)では連邦議会においてCDU/CSUが246議席、連立パートナーのSPDが153議席、計399議席と、全709議席(1)一体感なき3党連立政権(2)安全保障政策の転換と新たな歳出圧力写真1,2 ドレスデンのクリスマスマーケット。[撮影:筆者]―逆境の信号連立政権 77 ファイナンス 2025 Jan.*2) CDUとCSUは政治方針を共有する異なる2政党の同盟である。CSUはバイエルン州にのみ所在する政党であり、CDUはその他15州に所在する。*3) DER SPIEGEL, Mr. Stefan Kuzmany, “Sie wollen. Aber jetzt müssen sie auch können” 26 Nov. 2021 2 2 「時代の転換」

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