ファイナンス 2025 Jan. 66ファイナンスライブラリーライブラリー 成文堂 2024年2月 定価 本体2,400円+税が、・・・職員の職務遂行に係る重要事項も評価対象となるなど、次第に人事評価に求められる役割の拡大がみられてきた。また、特に近年は、国家公務員を取り巻く状況が大きく変化し、若手の離職者が増加する一方で、国家公務員の志望者が減少傾向にあることも踏まえ、国家公務員の働き方改革が喫緊の課題となってきた。人事管理上も、従来からの人材育成に加え、職員のモチベーション、エンゲージメントの向上が重視されるようになった。こうした課題に対応するためには、管理職によるマネジメントが十分に機能することが不可欠であり、こうした要素をどのように評価するかも課題になってきた」(14頁)との本書の認識はまさに現場で実感するものになっている。また、「制度そのものは定着していると考えられるものの、運用実態調査の結果、評価作業が煩雑な一方で、運用面で当初の目的を十分達成できていないことが明らかになった」(本書146頁)との率直な認識にも共感を覚えた。第七章では、今回の改善方策の具体的中身について概説している。第三章から第五章で概観される民間企業、地方公共団体、諸外国国家公務員の人事評価制度も示唆深く有意義である。第六章の官民比較は、主執筆者(稲継教授)のこれまでの豊かな学識経験を踏まえた簡潔にして深い記述に脱帽する必読の章である。第八章は、今後も常に振り返るべき貴重な考察が並ぶ。第八章「評価の理想と現場運用の乖離の解消」において、制度官庁が詳細な制度を作る傾向がある一方、「現場においては、人事評価は本来業務の合間を縫って行うものである」とし、「人事評価は組織のパフォーマンス向上や人材育成の手段であって、人事評価それ自体が目的化してはならない」との洞察はまさに至言だ。この最終章の最後は「人事評価制度の不断の改善」で締めくくられる。精緻にすればするほど改善が難しくなるが、このトレードオフに直面しつつ、まさに「カイゼン」を常に進めていくべきだろう。渡部 晶評者国家公務員の人事評価制度については、2020年7月、内閣官房内閣人事局に「人事評価の改善に向けた有識者検討会」が設置され、それまでの人事評価の運用実態や民間企業等における状況も調査した上で、その改善について検討されることとされ、この検討会の報告書は2021年3月に取りまとめられた。そしてこれを基にした改善が2021年10月から順次実施されている。本書は、行政学の立場から上記の有識者会議に参加した稲継裕昭氏(早稲田大学政治経済学術院教授)と、会議の運営に当たった内閣官房内閣人事局の担当参事官の鈴木毅氏(本書発行時は、内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(地方・訓練担当))の共著である。『自治研究』(第一法規)で2022年4月号から2023年3月号まで9回にわたり長期連載がなされた後、単行本として世に問われた。構成は、第一章 人事評価制度改善の契機と経緯、第二章 改善前の国家公務員の人事評価制度の現状と課題、第三章 民間企業における人事評価の動向、第四章 地方自治体における人事評価の動向、第五章 諸外国国家公務員における人事評価の動向、第六章 人事評価の官民比較―組織目的と人事評価のあり方、第七章 国家公務員の人事評価の改善方策、第八章 人事評価改善の評価・今後のあるべき方向性、となっている。評者は、2001年から2003年に福岡市に出向して人事行政担当をした経験がある。当時、福岡市は行政経営改革の一環で目標管理型のシートを個々の職員に先進的に導入することにし、庁議で概要を説明した。その際の居並ぶ幹部職員の重苦しく冷ややかな空気をいまだに思い出す。国において、それまでの勤務評定制度を見直し2009年10月から導入された目標管理型の評価制度の導入はそれだけのインパクトがあったことは間違いない。しかし、「人事評価制度の導入当初は、職員の能力や実績を適正に評価するとのシンプルな理念であったFINANCE LIBRARY稲継 裕昭/鈴木 毅 著国家公務員の 人事評価制度
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