SPOT ファイナンス 2025 Jan. 58とき私はインドデスクとして、協定の細かな文言の詰めを含めインド側と調整を行いました。2013年夏にIMFから帰ってきて数か月後のことで、本当に忙しかったです。結果として大臣や首脳レベルまで話があがって、それが両国の戦略的パートナーシップの一部に位置づけられた際には、大きな達成感を感じました。その一方で、関係者の数はそれほど多くなく、あるいは、担当レベルの人達で打ち合わせをして、社会的なインパクトも国の首脳レベルということではないのですが、手触り感というか、自分でかなりの部分を生み出す楽しさがある仕事もあります。例えばジェンダー平等の分野で、世銀やアジア開発銀行のエキスパートも招いてイベントを企画したことがあるのですが、こちらは私が言い出しっぺでしたので、0から1を作る仕事でした。実験的な試みでしたが、関係者の方々のご尽力もあり、200人ぐらいハイブリッドで参加した大盛況のイベントになりました。学生さんに対しては、こういう面白さをもうちょっと伝えていきたいと思います。メディアに取り上げてもらえるようなスポットライトのあたる仕事の重要性は我々も採用活動を通じてお伝えしてきていると思うのですが、自分がプロフェッショナルとして0から何かを創発する、生み出す仕事もけっこうあるので、それを仕事の魅力としてもっと伝えなければいけないな、と思いを新たにしています。学生:数字上だと、確かに公務員志望は増えてはいません。ですが、今年公務員志望の人たちと勉強した経験では、熱意を秘めている学生は多く、彼らが入省して活躍されているような姿は目に浮かびます。数だけでは測れないところはあるのかなと思っています。津田:自分の職業人生を振り返っても、最初に入った時は法令や国会や予算関連の仕事をイメージしていたのに、今は全然違う仕事をしているわけで、この仕事は面白いと後から気づくことは普通にあります。あるいは、さきほど面白い仕事ができると実感しているのは、時間が経ってからと言いましたが、その過程の「下積み」の重要性に気づくのも少し時間が経ってからなんですよね。服部:学生からは、公務員には専門性がない、専門性が身につかないという指摘がありますが、これについてはどうお考えでしょうか。津田:定期異動(ローテーション)があるので、1つの部署に長くいることで得られる知識のようなものは、確かにつきにくいかもしれないですね。ただ、専門性とは、何も一つの部署にいてこれを知っています、ということだけでないんですね。知識はいずれ陳腐化しますし、一番大事なのは、自分なりの「視座」「見方」のようなものをもっているかどうか、だと思っています。例えば私はソブリン(政府)の債務問題に対する研究をIMF時代に行ったのですが、それ以来ずっとアカデミックな議論含めてウォッチを続けています。こういうものは、時間がかかっても良いので、頑張って5年や10年かけてはじめて身につくようなものだと思います。1つの部署にずっといれば身に着けられるものでもないし、異動すると習得することができないというものでもないです。これからは、生成AIで代替できるようなものは専門性ではなくなってくるので、それこそ判断力や、私が好んで使う「connecting the dots」というか、異なる分野の知識を結びつけることなどが求められて来る時代だと思います。この表現が適切かどうかわかりませんが、財務省は、専門性が身に付く「保証」はないけれども、そのための「材料」「機会」は豊富にあるというのが私の体感です。「やる気」「新しいものに対するオープン・マインド」があれば、色々なキャリアパスが拓かれると思います。今の自分のポジションの話でいえば、私のカウンターパートは、世銀やアジア開発銀行などの副総裁(Vice President)とか局長(Director)だったりもして、皆自分より年上で実務経験も豊かな方々だったりすることも多いです。狭い意味での専門性では到底太刀打ちできず、色々な仕事をしてきた結果として得た多角的に物事を分析する視座のようなものがあって初めて対等に議論することができます。今の国際情勢というのは、前例がないことが続いていますから、マクロ経済、法制度、国際法、各セクター等々の専門知識も必要で、特定のディシプリン(学問分野)だけを知っているだけでは解けない方程式がたくさんあります。その一方、一本刀というか、「これが私の強みです」という何かは持っていかないといけません。それは例えば、法律でもいいですし、経済学でもいいし、特定の分野、特定の国、何でもいいと思います。「なんと津田尊弘課長に聞く、国際金融と経済協力
元のページ ../index.html#63