ファイナンス 2025年1月号 No.710
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SPOT考えにも謙虚に耳を傾ける。言葉にすると当たり前すぎるのですが、それがこの10年間の反省であり学びですね。もっというと、ユニバーサルヘルスカバレッジとか、質の高いインフラ投資のように、日本が強みを持っている分野だけでなく、日本がこれから、という分野でも協力を推進してもいいと思います。例えばジェンダー平等は、世銀が「女性・ビジネス・法律」インデックス(Women Business and the Law Index)というものを作っていますが、日本は190カ国中100位くらいなので必ずしもいい評価ではありません。この評価を機械的に受け入れましょう、ということでは全くないですが、こういった指標も1つの参考にしながら、僕たちも途上国の皆さんから勉強させてください、という姿勢をもってもいいと思うのですよね。新興国との対話という文脈では、直近2年間G20の議長も務めていたインドやブラジルとは、私も仕事の付き合いがあるのですが、自信を持ってきているのも感じます。そのような人たちと議論するには、今まで先進国はこういう風に議長国運営をやってきたから、君らもそうするべきだよ、というアドバイスだけだと、うまくいかないかもしれません。どういうことをやりたいのかを聞いてあげて、こういった国々の人たちの懐に入っていく事も重要だと思います。学生:国民皆保険を世界でもっと当たり前にしていく中で、日本がそれを援助するというところで、日本の主張がどこまで通るのかを疑問に思いました。つまり、例えばアメリカでは、大統領選でヘルスケアが争点になる中で、日本はどのようにアドバイスをして、どこまで介入できるのかについて気になります。津田:アメリカに限った話ではないですが、MDBsを通じて政策を実現する場合は、JICAのような二国間支援機関を通じた開発援助と違って、ドナー国(株主)は我々だけではないので、みんなの意見を聞きながら少しずつ進めていくことになります。保健の話をいただいたので、具体例を使ってご説明します。2019年、これはコロナ危機の前ですが、大阪のG20サミットのマージンで、G20財務大臣・保健大臣合同会合を初めて開催したことがありました。その際、UHCに関する成果文書というのを作り、ご参加いただいているG20財務大臣・保健大臣にそのコミットメントをご確認いただいたのですが、その文書の作成には、大変な苦労を要しました。交渉の舞台裏を詳らかにすることはできませんが、この財務大臣・保健大臣が合同で確認する文書というのがそもそもG20で初めてということもあって、各国の財務省・保健省から、我々が作ったドラフトに大量にコメントが届きました。メールとテレコンを通じて、1つずつ丁寧に合意を取っていきましたが、財務省と交渉していると思ったら保健省の人だったり、すごいこだわったと思ったら急に譲歩する国があったり、相反する意見が異なる国から出されて間に挟まったりして、とにかく時間をかけて丁寧にやっていくしかなかったですね。「そもそもUHCがなぜそんなに重要なのだ」と聞いてくる国もあり、そこからときほぐしたこともあり、保健省側からWHOの専門用語が多く含まれたメッセージが来て、一生懸命勉強したうえで文書に反映させたこともありました。やはり、マルチラテラル(多国間)でやっているときには、必ずしも日本の言い分だけが通るわけではありません。であるからこそ、日本の旗をしっかり立て続けながら、相手から反論や疑義が示されたら、なぜそういう意見が出るのかも考えて、寄り添いつつ、譲れぬところは譲らず、時間をかけて、交渉を進めていくということではないかと思います。服部:最近の学生にとって、公務員の人気は落ちていると感じますが、これはどのように理解されていますか。津田:そうなんですね。学生の目から見て他に魅力的に移る仕事が増えてきたこと自体は、ポジティブなことだと思います。また、自分の仕事を振り返ると、仕事が面白くなってくる時期は、多少時間が経って経験を積んでからだったりもするので、就職活動当初はそれが見えにくいというのもあるかもしれません。役人生活を振り返って、やりがいのある仕事を考えるに、「大きな仕事」と「小さな仕事」の両方あったな、と思います。大きな仕事とは、文字通り社会的に大きな意義のある仕事です。例えば、2013年に、日本とインドとの二国間の通貨スワップ協定の規模が150憶ドルから500憶ドルまで拡充されました。この財務省で働くことやキャリア、スキル、英語力について 57 ファイナンス 2025 Jan.

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