SPOT ファイナンス 2025 Jan. 56く、対策は進めるという大きな土俵に立ったうえで、例えば今述べたような「適応」のような各論を推していって日本の独自性を出していく方が、インパクトのある仕事ができると思います。学生:SDGsの達成といっても、各国の問題解決の文脈でのみ使われていると感じました。例えば、ガーナでこういう問題を解決した場合に、SDGsも一緒に達成しましたと。SDGsが後付けで言われているのか、それとも本当にそれ自体として解決しようとしているのかが疑問に思いました。津田:面白い指摘ですね。SDGsは国連で採択された目標ですから、MDBsというよりは国連の人達で主に議論されている概念ですね。もちろん僕らの世界でSDGsが議論されることはありますが、MDBsのビジョンはSDGsの達成そのものではないので、そこは分けて考える必要がありますね。2点ほど、関連して付言させてください。1つはSDGsを達成するための資金需要を議論する際に、それは各国政府や国際機関だけでなく、民間資金の動員も不可欠であること。SDGsを達成するためにこれだけ金が足りない、だから、開発機関にドナー国がもっと出資して、お金を途上国に流さないといけない、ということをおっしゃる方もいるのですが、膨大な開発需要に対応するには、ODAだけじゃなくて、民間のお金も動かさないといけません。それに対する戦略や仕組の議論をしないで、SDGsの重要性だけを議論してはいけないとは思います。もう一点は、SDGsに掲げられている気候変動問題含むグローバルの課題を議論するというのは、それほど単純ではないんですよね。例えば、気候変動はグローバルな課題であると考え、だから、途上国も石炭とか天然ガスばっかりじゃなくて、クリーンなエネルギーだけを使え、と言われると、途上国からすれば、いやいやちょっと待ってくれと、先進国はこれまで散々世界の気候を汚してきて、結果としてみんな苦しんでいるんじゃないかと反論もあるでしょうし、現実問題としてクリーンエネルギーへのトランジションを進めている最中なので、いきなりそんなことはできませんよ、という意見もあるでしょう。学生:私は三重出身で、伊勢志摩サミットがすごく話題になっていたことを覚えております。国際局と、財務省の他の4つの局との主な違いは、自国だけでなく他の国も絡むことにあると思います。つまり、国際局は、どうしても日本だけがやりたいことはできない一方で、最終的には日本のためになるようなことをしていく必要があると思います。しかし、途上国がプレーヤーとして出てくる中で、なかなか日本だけがやりたいことができなくなるのかなと感じました。その中でどういう風に役割を果たしていくことができるのかについてお伺いしたいです。津田:途上国との付き合い方ですね。これはファイティング・スタイルというか、人によって方法論はだいぶ違うと思います。私個人は、「寄り添う」ことが結構大事だと思っています。日本がリードしている開発課題の一つとして国際保健(グローバルヘルス)があります。特に、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)、すなわち、すべての国民に質の高い保健サービスを、アフォーダブルに(安価な自己負担で)提供するとい理念を広めています。日本でいう「国民皆保険」の概念もこれに含まれます。もちろん、途上国では(もっというと先進国であっても)日本のように保健サービスが充実している国はほとんどないわけですが、UHCを究極の目標とした場合に、そこに至る道筋は国によって全然違うわけです。そもそも医者が少ない国もあれば、医療従事者はたくさんいるが偏在している国、人はたくさんいるが法律や制度が充実していない国もある。One-size-fits-allの解決策はなく、このような個別の状況に寄り添って、あなたの国でUHCを目指すにはこういうことが大事ですよとアドバイスする。UHCの推進自体は日本政府はハイレベルまで上がっている概念ですが、それを具体化するとなると、僕らレベルで各国の事情に合わせていく必要があるので、そこで「寄り添う」ことが求められるとは思うのですね。途上国だけでなく、先進国にも、寄り添うことがあります。例えばカナダはジェンダー平等を大事にしている国ですが、カナダに、単に、インフラ投資って重要だよねという話をしても必ずしも説得できるとは限りません。ジェンダーが大事という文脈を加えて、工事現場で女性が嫌な思いをしないことも、インフラ投資の質の大事な要素ですね、という話をしたりもする。日本の優先課題を第一に掲げながら、相手の事情や津田尊弘課長に聞く、国際金融と経済協力
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