SPOT(注) 一撃目(グアム、沖縄・本土米軍基地)、反撃(中国本土)、比・豪への攻撃、ハワイ近隣での核使用への推移。(出典)Pettyjohn et al.(2022)(出典)Cancian et al.(2023)に基づき、筆者作成。艦船のロス172643138141428113図2.15:エスカレーション(CNAS)CSISでは、マーク・カンシアン(Mark Cancian)らが、2026年を想定した台湾侵攻を想定したゲームを開発し、24回実施している(Cancian et al., 2023)。ほとんどのシナリオでは、米国、台湾等は中国を撃退し、台湾の独立を維持した。カンシアンらは、撃退の条件として、1)台湾が抵抗し、降伏してはならないこと、2)米軍が速やかに直接戦闘に参加しなければならないこと(海上封鎖を受ける台湾では、ウクライナの場合のように、参戦せずに軍事支援を行う余地はない)、3)アメリカが日本にある米軍基地を作戦に使用できること、4)中国の防衛圏の外側から、アメリカが中国の艦隊を迅速かつ一斉に攻撃できなければならないことの四点を挙げる。他方、カンシアンらは、防衛には大きな犠牲が伴うことを指摘する。表2.6はベースシナリオと悲観シナリオでの航空機と艦船のロスを示し、アメリカと同盟国は、二隻の空母を含む数十隻の艦船、数百機の航空機、そして数万人の軍人を失うという。台湾は経済的めには、戦うことを学ぶ必要がある。ワシントンでは、台湾侵攻を想定したwar gameがおこなわれ、そのなかには一般に公開されているものもある。日本の目線からのゲームの報告には岩田他(2022)の例があるが、ここではワシントンのシンクタンクの最近の取り組みをみる。に大打撃を受ける。多大な犠牲はアメリカの世界的な地位を長年にわたって傷つける。中国も大きな損失を被り、台湾を占領できなかったことで中国共産党の支配が不安定になる可能性もあるという。これらのゲームから、カンシアンらは、米国は直ちに抑止力を強化する必要があると勧告する。より小型で生存性の高い艦船へのシフト、潜水艦の優先などのほか、台湾には非対称的な能力の整備(small, many, mobile, lethal; Porcupine)を求める。また、多くの死傷者を出しても作戦を継続する必要性を認識すること、中国本土を攻撃すべきではないという勧告も目を引く。もうひとつの報告は、CNASのステイシー・ペティジョン(Stacie Pettyjohn)らによるものである(Pettyjohn et al., 2022)。彼らは、ギャラハー下院議員(当時)ら有力な政治家を含むチームで2027年を舞台とするゲームを行った。その様子はNBCで放映された。ゲームの結果は、中国、アメリカのいずれも直ちに勝利を収めることはできないことを示す。ゲームは中国の直面するジレンマを浮き彫りにした。すなわち、中国は、1)戦争を限定してアメリカが介入しないことを期待するか、2)侵攻の成功確率を高めるために在日米軍基地を含むアメリカの目標への先制攻撃をするかという選択を迫られ、ゲームでは中国は先制攻撃を選択している。ペティジョンらの報告に特徴的なことは、戦争が急速にエスカレートする可能性を示唆していることである。中国がアメリカの介入を阻止または終結させるために核の脅しを使うほか、核戦力の限定的行使へと進む可能性があるとし、ゲームでは中国はハワイ近隣での高高度核爆発を実施している。図2.15は、中国によるグアムや在日米軍基地等の先制攻撃、アメリカによる中国本土への反撃、ハワイ近隣での核使用に至る経緯を一枚の地図にまとめている。ペティジョンらの勧告も、抑止力向上の緊要性という点でカンシアンらの報告と類似している。ただ、長期戦をどのように戦い、どのよう終結させるかを検討すべきとしている点は特徴的である。中国の台湾へのアプローチは、実際のところ、戦わずして目的を達することを優先するとみられる。アメリカのシンクタンクでは、戦争に至らない、隔離(quarantine)、封鎖(blockade)などを想定した研究も行われている。これらの研究を行う人々は決して好戦的なわけではないだろう。戦わないためにも、戦うことを学ぶ必要があるとの認識に立っているものと考えられる。表2.6: ベースシナリオと悲観シナリオにおける航空機、艦船のロス(CSIS)Combat aircraftのロス米国日本計中国米国日本計中国ベース270112382155悲観484161645327 39 ファイナンス 2025 Jan.
元のページ ../index.html#44