ファイナンス 2025年1月号 No.710
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SPOT ファイナンス 2025 Jan. 38ちうることを示唆する。他方、制裁だけではその抑止力に限りがあるとしても、このことは中国との緊張を管理する上で制裁が何の役割も持たないという意味ではない。制裁は、外交、軍事、経済力を含めたアメリカの持つ多様の手段の一部であり、その全体のなかでどのように活用すべきか、検討が重ねられていくだろう。(出典)Horn et al.,(2023)(出典)Ray(2024)の融資動向(2001-2023年、10億ドル)図2.14:中国による救済の対象国、タイミングアメリカにみる社会科学の実践(第四回)まり、中国もより注意深く、リスク回避的になってきたという。レイは、政治的に中国と協力する時期ではあるかどうかは別としつつも、中国の開発金融機関と健全な競争ができうる環境に近付いているとの認識を示している。他方、セバスチャン・ホーン(Sebastian Horn、ハンブルグ大学)らは、中国による対外金融活動が別のフロントでは依然として活発であることを報告している(Horn et al., 2023)。具体的には、中国は2008年から2021年にかけて22か国に2,400億ドルもの救済資金支援を実施しており、この量は過去10年間のIMF融資総額の20%以上に相当するという。中国はグローバル・スワップ・ラインを活用し、1700億ドルを超える流動性支援を行ったほか、中国の国有銀行・企業が700億ドルの追加融資を国際収支のサポートのために実施したという。これらの救済金融は、一帯一路のインフラ建設に充てた融資の返済に苦しむ国が増えたため、近年急増しているという。ホーンらは、中国の救済融資について、1)不透明であること、2)比較的高金利であること、3)ほぼ中国の一帯一路構想の債務者だけを対象としていることという問題点を指摘している。図2.14は、救済の対象国と救済のタイミングを示したものであり、近年でも活発な活動状況をうかがうことができる。図2.13: 中国開発金融機関(棒)と世界銀行(折れ線)のエネルギー部門へゲーム理論は、すべての帰結が等しく起こることを想定しているわけではない。相互の選択の結果として、決して起きることのない帰結もある。それでも、その帰結の存在はゲームの不可欠の一部をなす。その起こらない帰結の性質を理解することが、ゲームをプレイする前提条件なのである。「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」とは『イザヤ書』の一節である。「主」のような存在を想定しないゲーム理論では、戦わないたコラム2.5:中国と世界各国の金融関係レベッカ・レイ(Rebecca Ray、ボストン大学)は、ボストン大学の管理する「Chinaʼs Overseas Development Finance(CODF)Database」を用いて、中国の2大開発金融機関である中国開発銀行(CDB)と中国輸出入銀行(CHEXIM)の新規融資額が2016年にピークを迎えて以来、減少していると報告している(Ray, 2023, 2024)。世界銀行(IBRD, IDA)とのコミットメントベースの比較では、2013年から2017年までの間、中国は世界銀行を量的に凌駕したものの、その後、世界銀行を下回って推移している。図2.13は、エネルギー分野への融資について、2001年から2023年の間の中国(棒)と世界銀行(折れ線)を比較したものである。レイによると、世界銀行と中国では、これまでは貸し出し案件に明確な違いがあったが、近年はその傾向が弱コラム2.6:アメリカでの台湾危機のシミュレーション

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