図2.10: 中国の個人・団体に対するEL、FDPR、SDNの適用状図図□□□□□□□□□□□□□□□□□SPOT ファイナンス 2025 Jan. 30政権では、軍近代化(185人)、ロシア(122人)、イラン(30人)と続き、いずれの政権も中国軍の近代化への危機感を抱いていたことが読み取れる。他方、SDNでは、トランプでは、イラン(91人)、北朝鮮(41人)、大量破壊兵器(36人)が上位三つを占め、バイデンでは、ロシア(171人)、イラン(120人)、大量破壊兵器(62人)が上位三つである。SDNでは、中国自体の弱体化を狙うよりも、中国が国際秩序に与える悪影響を抑止する制裁が多い。中国自体を問題とする制裁は、トランプの香港(35人)、バイデンの人権(19人)が目立つ程度であり、二国間関係に関わる麻薬密輸がトランプで18人、バイデンで51人挙がっている。他方、中国への適用状況をみると、輸出管理に比べて金融制裁の中国への適用にアメリカ政府が慎重であることが読み取れる。機密技術を中国に供与しないという政策目標を達成するためには、広範な金融制裁よりも、ターゲットにマッチした輸出規制の方が適合的であるという計算を反映しているのであろう。(2)カネに関する措置経済安全保障の制度的基盤の全体像をみたが、以下では、カネに関する措置(金融制裁、対内投資規制、対外投資規制)の詳細を検討する。カネに関する措置がロシアへの金融制裁で脚光を浴びた経緯があるほか、FIRRMAの成立や対外投資規制の導入という重要な制度改正が相次いでいるからである。金融制裁は、国際緊急経済権限法やグローバル・マグニツキー法などの行政に制裁権限を委任する法律に基づき実施するもので、財務省傘下のOFAC(TFI:テロ・金融インテリジェンス部)により管理されている。OFACは国務省、ホワイトハウス(NSC)との連携のもとにあり、外交上の方針・大枠を国務省やNSCが決め、OFACは対象の子会社など関係者を悉皆的に調査し、制裁対象者のSDNリストを作成する。アメリカ人(US persons)は、SDNリスト掲載者との一切の取引を禁止され、米銀を介した取引が一切できなくなる。アメリカ外の個人・団体であっても、彼らがSDNリスト掲載者と取引を行い、米ドル決済の際に米銀が関与すれば、それが意図的なものでなかったとしても、「米銀を違反させた」として罰金を科せられる。SDNリストには12,000以上の団体・個人が掲載されており、OFACのHP上で公開されている。OFACは必要に応じ、制裁対象者との取引許可(ライセンス)を発行することがある。ローワン・スカルピーノ(Rowan Scarpino、CNAS)らによると、2023年、アメリカは879人の個人と1,621の団体からなる2,500人をSDNリストに追加し、これは2022年に指定された2,275人から10%増加した(Scarpino & Trainer, 2024)。ロシアのウクライナ侵攻、中国との競争の激化、中東の安全保障環境の悪化などにより、歴史上例のない数の制裁を科している(2017年から2021年の間に年間制裁人数は平均815人)。2023年も、ロシアは引き続きSDNリストの大きな部分を占めており、ロシアは国別指定全体の61%を占めている。その他、イラン、ベラルーシ、ミヤンマー、北朝鮮などを引き続き標的とし、汚職、人権、テロ、麻薬、大量破壊兵器、サイバーに関連する活動と戦うための制裁を科している。金融制裁について、財務省はたびたび考え方を整理している。2016年には、当時の財務長官ジェイコブ・ルー(Jacob Lew)が、これまでの教訓を明かにした講演を行い(Lew, 2016)、イエレンのもとでは2021年10月にまとまったレビューを公開している(Department of the Treasury, 2021)。これらの整理の根柢にあるのは、金融制裁が多用される割に相手の行動変容を引き出すことができていないという問題意識である。そして、制裁が米ドルの地位を掘り崩し、いずれはデジタル通貨などの技術革新が制裁の効果を減殺するのではないかという危機感であった。2021年のレビューでは、1)制裁を明確な政策目的況の推移アメリカにみる社会科学の実践(第四回)2200001155001100005500002200117722001188220011992200220022002211220022222200223322002244EELL(出典)Hume & Scarpino(2024)に基づき、筆者作成。(出典)□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□に基づき、筆者作成□(注)2024年は同年8月までの計数。FFDDPPRRSSDDNN
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