ファイナンス 2025年1月号 No.710
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SPOT ファイナンス 2025 Jan. 28財務総合政策研究所客員研究員 廣光 俊昭の産品の輸入禁止などもあるが、その主要部分は、商務省(BIS)が2018年輸出管理改革法(ECRA)に基づいて所掌する輸出管理である。カネの移動は、1)金融制裁としての資産凍結やドル取引禁止を財務省(外国資産管理室:OFAC, The Office of Foreign Assets Control)が所掌し、2)アメリカへの直接投資(inbound)の制限をCFIUSが管理する。バイデン政権末期(2025年1月)には、3)アメリカから中国等への投資(outbound)に関する規制が開始される。ヒトの移動としては、大学や研究機関への中国等からの人材の出入りに制限がかけられ、出入国管理などが関与するが、以下ではモノとカネに焦点を当てる。モノにしても、カネにしても、規制の方法は、1)人的側面(特定の個人や団体)を切り口とするもの、2)分野や行動の態様(半導体分野への投資、一定の不動産投資など)を切り口にするものがある。政策目的や規制対象の実情を踏まえて、これらのいずれか、またはその組み合わせが用いられる。輸出管理で、人的側面に着目した仕組みとしてはエンティティリスト(Entity List、EL)が知られる。ELに特定の品目の移転を図る際には、BISに許可申請を行わなければならない。金融制裁でELに相当するリストが、SDNリスト(Special Designated Nationals and Blocked Persons List)である。同リストは、アメリカの安全保障を脅かすこと等を理由に指定された個人・団体(および財産)を掲載したリストである。アメリカの個人・団体はリスト掲載者との取引が禁じられ、違反した場合は制裁対象となる。他方、直接投資(inbound)を審査するCFIUSは、人的な切り口ではなく、分野や行動の態様に基づく規制を実施している。CFIUSは、外国からの投資が安全保障に脅威をもたらすかどうかを審査する省庁横断の委員会である。外国人によるアメリカ企業の合併や取得、買収を審査対象とし、5.経済安全保障の制度的基盤とその実際(1)制度的基盤経済安全保障を経済的手段を用いて安全保障上の目標を達成する施策であると考えると、広範な措置が経済安全保障の範疇に入ってくる。関税措置のうち、ウクライナ侵攻に際してロシアに取られた、恒久的通常貿易関係の撤回は、明らかに経済安全保障上の措置に入る。トランプが示唆したように、中国が台湾を侵攻したことへの制裁として関税を課すことになれば、このような措置も経済安全保障の範疇に入る。関税措置には、国際緊急経済権限法(IEEPA)という安全保障上の根拠に基づく措置がある。第一次政権では、移民問題を安全保障上の問題と解することで、メキシコに同法に基づく関税措置を課す可能性が取りざたされた。関税措置は不利益を受ける者から訴訟を受ける可能性があり、法的な意味で安全保障の意義は野放図に拡大するわけにはいかない。第一次政権のもとでの通商法301条に基づく貿易戦争、バイデン政権のもとでの同条によるEV等への関税措置は不公正な貿易慣行に対抗するものとされ、法理的には経済の範疇に入る。しかしながら、これらの措置は地政学上の競争相手である中国をターゲットとするものであり、安全保障の基礎をなす富や技術を巡る争いの道具として動員されている実態があり、この実態を重くみる場合、経済安全保障上の措置とする解釈もあるだろう。関税措置はモノの動きに課す金銭的インセンティブを操作するものに過ぎないが、アメリカはモノの動きを直接制限することもできるし、カネ、ヒトについても、その移動を制限する規制体系を発達させている。これらの移動の制限を通じて目指すものは、軍事転用可能なモノや技術へのアクセスを制限することや、相手国の経済的困難を増すことで政策転換を強いることなどである。モノの移動への制限には、新疆ウイグルアメリカにみる社会科学の実践 (第四回)―地経学、経済安全保障(2)

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